Malvina Reynolds / Another County Heard From

Hi-Fi-Record2009-03-04

 このところの買い付けでは、目当ての場所まで行くのに、まず地図を使わなくなった。なにしろレンタ・カーには、ほぼカーナビが付いているからだ。


 家にレコードを見にこないか?とディーラーに尋ねられたとき、かつては詳細に道順を聞いた。アメリカ式の道順の伝え方は、ちょっと我々には馴染みにくい。今では「GPSがあるから、住所だけ教えてくれれば、あとは大丈夫」と言えるようになった。カーナビのことをアメリカではGPSと言う。


 ただしこのGPSがくせ者の時もある。
 高速で道路工事が行われていて、突然に一般道におりなくてはならなくなった。指示通りの道を辿っていないとき、GPSはルートの再計算を行う。しかしGPSは、もちろん道路工事など行われていることなど知らないから、再計算した後にそんなことはおかまい無しの指示をする。GPSの言うことだからと指示に従っていると、わざわざ高速に乗っては工事の手前で下ろされ、また高速に乗っては工事の手前で下ろされて、おなじ道を繰り返し通る羽目になった。ほんの20分くらいでホテルまで帰れる道を、3倍くらいもかかったことがあるのだ。

 
 松永君が、「ダメですねえ、こいつは。融通がきかん」と言いだした。GPSが発するのは、女性の声だ。「原則論ばっかり振りかざしてる女みたいだ。疲れる」と怒り始める。その通りだ。


 しかし良いところもあって。何回道を間違えても、GPSは怒らない。ダメじゃないのとか、何やってるのとか、もう絶対に間に合わないわよとか、いつも間違えるわねえとか、決して言わない。
 何度でも同じ口調で教えてくれる。
 「間違えると、怒っちゃうカーナビもあったんですよ。方言、たとえば青森弁で道を教えてくれるカーナビもあったんですけどえねえ」と松永君が言いながら、間違えちゃダメですよと青森弁風に言う。まさか、それってホント? 
 あやうく信じるところだったじゃないか。運転中にふと眠くなるボクを気遣っての、松永君の暖かいジョークなのだ。


 可愛くて素敵な歌を書いた反骨おばあちゃまのマルヴィナ・レイノルズ。アルバム・カバーは、サンフランシスコ市内の詳細な道路地図だ。
 彼女が歌を歌い活動していた地域ということなのだろう。60歳の時に発表したファースト・アルバムだ。(大江田信)



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