The Fugs ザ・ファグス / The Fugs Second Album

Hi-Fi-Record2009-03-16

もう何年も前の買付の話。


とあるレコード屋にたどりついたとき、
ぼくと大江田さんは
もうへとへとだった。


連日の強行スケジュール、
夜討ち朝駆けの連続が
からだを痛めつけていた。


レコードを探す旅でくたびれているのに、
良いレコードを発見するのが何よりの薬だという皮肉に
もうずっとつきまとわれていた。


その店は
人通りの多い場所にある。
入り口は狭く
店内は薄暗いが
レコードはうんとある。


値段に少々不満はあるが、
レコード自体は品質などにケアが行き届いているし、
なによりも、
すぐ近くに巨大なレコードショップがでーんと構えているのに
ちゃんと自分の店らしい品揃えで
店の棚をぎっりしと埋めているのは褒めてあげたい。


ただし
疲れているときはこの店には
出来ることなら立ち寄りたくない。


その理由は
店主の音楽的嗜好にある。


店主が好んでかけるのは
エレクトリック・マイルスや
フリージャズ、
サイケデリックでファーラウトで
ビートニクなアートロックなどなど。


とにかく、こむずかしいのだ。


この店でレコードを見ていると
いつも大江田さんはこのBGMのせいで
心を折ってしまう。


ぼくもいくらか耐性があるとは言え、
いつぞやヨーコ・オノのアルバムが爆音で流れ続けたときなどは
さすがにかなりまいった。


そのとき店主はどうしていたか。


何と、店の外に出て
知り合いと話しながら煙草を吸ってやんの!


ヨーコの叫びが店内に渦巻いている間、
店主は決して店に戻ってこなかった。


今はこれは聴きたくないけど、
これはうちの店でかかっているべき音楽なんだ、
なんてことをやつは言うのだろうか。


話は戻る。
そんな店でぼくたちは粛々と
BGMに心をふさぎ気味に買付を続けた。


そのとき、
突然、その歌は流れてきた。


つかれきったぼくの耳をぐいっと握って
そこから腕を差し込み、
心をわしづかみにするような声だった。


それがファグスの「アイ・ウォント・トゥ・ノウ」だった。


ごつごつとした歌声は
ささくれだった心にジャストでフィットした。


やわらかさや、やさしさだけでは
ひょっとしたら届かないかもしれない
心のくらい部分をさわられたようで
泣きたくなるくらい感動した。


今もこのアルバムを聴くと
そのことばかりを思い出す。


店主の見識にも感謝しなくてはならない。


何故って
店主は
このセカンド・アルバムを
A面2曲目からかけたんだから。


あの、愛ある“いきなり”が
あの日、ぼくたちを救った。(松永良平


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