Eivets Rednow イーヴェッツ・レッドナウ / Eivets Rednow

Hi-Fi-Record2009-03-23

中学の同級生だったS田くんが
突然ハーモニカを習いたいと言い出した。


THE MODS森山達也さんが
吹いている姿がめっぽうかっこよかったのだと
S田くんはきれいな目でぼくに訴えてきた。


83年の秋、
THE MODS初の全国ヒット「激しい雨が」が
ラジオからもテレビからもよく流れていた。


しかし
ぼくの生まれ育った町は田舎だ。


手本にすべき先輩のロックバンドなんかいなかったし、
音楽の先生に基礎から教わるような時間も忍耐もないよと
S田くんの顔には書いてあった。


青春とは
特別急ぐ理由は何もないのに
わけもなく手順をすっとばしたくなるものなのだ。


S田くんとは
高校が分かれてしまったので
その後のことはよく知らない。


順調にロック少年に育っていれば
ブルーハーツも聴いただろうなと思う。


急にS田くんのことを思い出したのは
スティーヴィー・ワンダー
名前をさかさまにして出したこのインスト・アルバムで、
今日、スティーヴィーの吹くハーモニカを
いっぱい聴いたからだ。


少年時代からハーモニカを吹き続けているスティーヴィーと
S田くんの腕前が同列に語られていいはずはない。


おそらくそれは
ティーヴィーの“きもち”優先の吹きっぷりが
「こういうふうに吹きたいんだ」という
見果てぬ夢の部分を
過剰に切なくかきむしるからだろう。


出来るかどうかじゃないよ、
やりたいんだ。


S田くんがぼくに話していたのは
そういうことだ。


しかしちょっと待てよ、
S田くんの吹くハーモニカ、
結局一度も聴いたことなかったよ!(松永良平


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