Marcel Dadi マルセル・ダディ / Dadi’s Folks

Hi-Fi-Record2009-03-27

 カントリーやフォークには、一定の音楽的な約束事が有って、それを踏まえることが、音楽らしさを表現する上で必須となっている。
 誰しもが、始めはその約束事から学ぶ。
 ある程度の長きの時間を音楽のなかで過ごし来た後には、そうした約束事の守り方、あるいは守らない処し方が、彼の依って立つところになる。
 それがルーツ・ミュージックを聞くときの楽しみの一つだろう。


 フランス生まれ、パリ育ち、その後にアメリカに移り住んだマルセリ・ダディは、アメリカ音楽が好きで好きでたまらないといった風で、どこかしら無邪気なあこがれが聞こえる。カントリー系音楽の約束事をこれだけ学びました的な、まぶしい優等生ぶりが見える。



 ギター演奏に多くを費やしてきた彼が、ここではふとしたボーカルを披露した。その歌声を聴くと(切れ切れに聞こえる歌詞のせいかもしれないけれども)、彼のここまでの音楽の時間をさりげなく振り返っているようだ。よくがんばってきたぞと自分に声をかけているようにも聞こえる。



 いつもの彼の通り、ここでも約束事を破ってはいない。しかし約束事だけではない音楽が、聞こえくる。
 コップを一杯に満たされた水が、すっと溢れ出すときのような。


 
 この歌声を聴いてから、よりもっと彼の音楽が好きになった。(大江田 信)


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