Mel Torme メル・トーメ / Swingin’ On The Moon

Hi-Fi-Record2009-04-06

昨日、お客さんとした話をしよう。


1950年代から見受けられるようになった
宇宙をテーマにしたレコード作品は、
どれも似通ったサウンドデザインをしているように思えるけれど、
実は世界の宇宙計画の進捗と
そのサウンドや世界観の変化は
一年刻みで
すごく関係しているんじゃないかというお話。


そもそも
こういう突飛なレコードには
話題があるから作られるという側面があるのだ。


たとえば
今、ハイファイにあるもっとも古い宇宙レコードは
スチュ・フィリップスが若い時分に手掛けた
「ミュージック・フロム・アウト・オブ・スペース」で、
発売は1955年。


コーラスとオーケストラで
プログレッシヴな合唱曲とも言うべき
予想のつかない展開の音楽を作り上げている。


宇宙に対するイメージがまだSF小説的で、
浮遊感、無重力感みたいなものが
まだ登場してこない。


しかし、
ソ連スプートニク計画により
1957年に人類初の有人ロケットを打ち上げたことで
アメリカもNASAを設立し
58年から宇宙飛行への取り組みを本格化させた。


ラス・ガルシアの名作「ファンタスティカ」
リリースの年だ。


61年にリリースされたメル・トーメのこのアルバム、
なにしろいかしたジャケで人気の一枚だが、
このアルバムのテーマが「月」に設定されたのは、
おそらく1961年5月に
ケネディ大統領が
アメリカは60年代中に月面に人類を着陸させると
宣言したことが大きな誘因になっていたはずだ。


アメリカの宇宙有人飛行計画は
1959年から63年にかけてのマーキュリー計画を経て、
ジェミニ計画
アポロ計画と進み、
69年7月20日の月面軟着陸で絶頂を迎える。


実は、
その着陸の足音こそ、
楽家たちがありとあらゆる想像力を駆使して
実際に創造すらした見果てぬ世界で鳴るべき音楽を
ぐしゅっとつぶしてしまったんだと
ぼくは思う。


「月で踊ろう」なんてアルバムを
おとなが真剣に作った時代には
もう戻れないのかな。(松永良平


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