The McGuire Sisters / Subways Are For Sleeping

Hi-Fi-Record2009-04-14

ニューヨークの地下鉄に初めて乗ったのは
1989年。


くらくて
くさくて
きたなくて。


今でもそうだが
電車が来るときのアナウンスもない。


それでも
お金もないので
トークン(地下鉄切符代わりのコイン)をせこせこ買っては
北に南に。


ある晴れた日に
ワシントン・スクエアで
妙齢のおじさんに話しかけられた。


日本から来た。
二週間いる。
ストーンズを見に来た。
プレッツェルも好きだ。
ニューヨークは好きだ。
地下鉄も好きだ。


そんな話をしていたら
急におじさんの顔が変わった。


「おい待て、
 地下鉄には気をつけろ」


ぼくの二の腕をつかみ
おじさんは自分の鼻を指差した。


「ほら、よく見ろ」


おじさんの鼻はくにゅっと曲がっていたのだった。
地下鉄のホームで
暴漢におそわれたのだという。


近年はずいぶん治安もよくなって
そんなに危険は感じなくなったけれど、
今でもそのおじさんのことは思い出す。


このマクガイア・シスターズのジャケを見て、
こんなに落書きするなんてひどいと言われたこともある。
でも、この落書きの愛嬌も
今となっては50年代という時代のしあわせという気もするのだ。(松永良平


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