Ian Whitcomb / Ian Whitcomb’s Mod, Mod, Music Hall
イアン・ウィットコムが、自身の60年代を振り返った著書「Rock Odyssey」(1983)を読んだことがある。
ティーンネイジャー向きのロックンロールなポップスでシーンに急浮上した彼が、アメリカの音楽ビジネス界をどのように泳ぎ、そしてイギリスに戻っていったのか、それがおもしろおかしく書かれている。
一番おかしかったのが、こんな一節。
60年代の半ば過ぎ、とあるテレビの音楽番組に出演したときのこと。スタジオに招かれているティーンネイジャーに向かって、それこそ精一杯の笑いとユーモアを振りまいたイアンは、共演したバーズの演奏に心底から驚いた。
なにしろバーズのメンバーは、誰一人としてニコリとさえしなかった。スタジオのティーンに向かって、微笑みを浮かべるなど一切の媚を振りまかなかった。
イアンは、ロックの時代が来たんだな、自分のようなポップスの時代は終わったんだなと思った、そう記している。
ロックンロールから足を洗った彼は、20世紀初頭から数十年間の時期に演奏されたオールドタイム音楽の世界にのめり込む。
研究熱心で凝り性の彼の資質が反映されつつ、ロックの時代を通過した感性を織り込んだ、独自のひねくれ感を生じる音楽を紡ぎだした。
ハイファイのコメントにある通り、博学のオールドタイム・マスターとしての本性を現した記念碑的セカンドがこれ。試聴曲の「Coney Island Washboard」は、1926年発表のジャズ・ソングだ。ジム・クエスキンも採り上げている。聞き比べると、両者のオールドタイマーとしてのあり方の違いが、よくわかるかもしれない。(大江田信)