Steely Dan スティーリー・ダン / The Royal Scam

Hi-Fi-Record2009-04-20

自慢ではないが
ぼくのレコード屋勤務歴は長い。


別に長いことを書きたいわけではなく、
昔働いていたお店の店頭カード、
つまり、
値札のことを思い出したのだ。


パソコン導入などはるか未来の話だ。


値段のはんこを押しながら
アーティスト名、盤質などを一枚一枚記入していくのだが、
手書きだし、
品出しをする枚数も半端なく多い店だったので、
丁寧に書いていくひまがない。


特に面倒くさいのが
アーティスト名だということで、
ソロ・アーティストのファースト・ネームは
イニシャル表記で良いという慣例がいつの間にか定着した。


ニール・ヤング → N・ヤング
レオン・ラッセル → L・ラッセ


そのうちさらに忙しくなってくると
一緒に働いていたバイト君も音を上げだした。


「すいません、ブルース・スプリングスティーン
 ブルース・Sじゃ駄目ですかね?」


ポール・マッカートニー
P・マッカートニーよりポール・Mの方が
手間が省けるというわけ。
おかしな話になってきた。


それでも多忙をきわめる日々だったので
ついにイニシャル作戦は
禁断のグループ名へと進行した。


つまり、


ローリング・ストーンズ → R・ストーンズ
ビーチ・ボーイズ → B・ボーイズ


中でも衝撃的だったのが、
ある日登場した
S・ダン。


え……?
これ、誰?


ジャケを見て
スティーリー・ダンだとわかっていても
誰もが一瞬判断に迷うこのワザ、
“略しすぎ”として
ぼくの心に今も深く残っている。


ちなみに、
その後、バリエーションとして
A・ブラザーズ → オールマン・ブラザーズ
B・ブラザーズ → ブルース・ブラザーズ
D・ブラザーズ → ドゥービー・ブラザーズ
など、数々の名略が生まれた。(松永良平


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