のんべーず / tHirsty sOulz

Hi-Fi-Record2009-05-08

The Cool School 5 ふたりの女、かつらの男 その1


ぼくがハイファイで働くようになって
まだ間もないころ。
アメリカの北の街のジャズ屋に行った。


名物オヤジがいて、
ジャズに詳しいだけじゃなく、
ちょっと変わったレコードや通好みのロックも置いている。


「きっと松永くんも好きな店だよ」


店のある建物は
表から見たらちょっと横長の二階屋といった感じだった。


中は、いくつかの店子が集合して出来ている。
日本でイメージする雑居ビルとは違い、
大きな一軒家にいくつかのフロアーがある雑居ハウスといった作り。
ドアは立て付けが甘く、階段はぎしぎし言う。
けっこうオンボロだ。


店の中に入ると
大きな白黒のポートレートが目についた。
物知りで社会性のなさそうなオヤジが写っていた。


もしこのひとが生きていたら、
自分では絶対にそういうことはしないタイプの人間のはず。
それぐらいのことはぼくにもわかる。
つまり、このひとは死んでいるのだ。


「なんだ、あのオヤジ、
 死んじゃったのか」


大江田さんがおどろいていたのはそれだけではない。


店主を失ったこの名門ジャズ・レコード屋
そのカウンターにちょこんと座る
短い金髪のやせた娘に見覚えがあったからだ。


その娘は
この店の下の階にあった古着屋で
去年まで店番をしていた子だという。


はっきりとした大きな目と
頭の回転の早そうな魔女顔の娘。
一度会ったら、忘れられない顔立ちだった。


ぼくがしげしげと彼女のことを眺めているうちに
大江田さんが死んだ店主のことを
いろいろと聞き出していた。


ええ、そうよ。
彼は死んだの。
いっぱいのレコードを店に残して
がんで死んだの。
そして“わたしたち”がこの店を買ったのよ。


わたしたち?


まだ若そうな娘が使った主語は
確かに複数形だった。


ギギッとドアが入って
誰かが店に入ってきた。
長い黒髪の、やはり女の人だった。


「ハーイ」

ブロンド娘が声をかけ、
黒髪娘が目で答えた。
そしてあっけにとられるぼくたちの方を振り返って
こう言った。


「あら、いらっしゃい」


何てこった。
このジャズ屋の新しいオーナーは
ふたりの若い女性だったのだ。


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富山県高岡市のレーベルから取り寄せた2枚のCD、
Teruko Kawateと
のんべーずは
2枚ともわずか4日で初回入荷分を完売してしまった。


あわてて追加注文して
今週末に間に合いました。


実は失礼ながら
のんべーずを最初にプレーヤーで聴いたとき、
「あ、これは間違ったCDが入ってた!」と
思ってしまった。


歌詞も英語だし、
ちっとも“のんべ”じゃない。
いや、実際にこの女性たちは酒豪なのかもしれないけど(北陸だし)。


それぐらいグループ名とのギャップというか、
ショックがあったのだ。


もちろんグループ名って
もっとかっこよかったり、
洒落てたりしてもいいのだろうけど
そのギャップを強引に押し通せるだけの音が
ここにはあるのかもしれない。


そういうことを
痛快というのか。(松永良平


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