Frank Cordell フランク・コーデル / Hear This

Hi-Fi-Record2009-05-11

The Cool School 6 ふたりの女、かつらの男 その2


伝説のジャズ屋を引き継いだのは若い女性ふたり。
どうなることやらと心配したのは
ほんの一瞬。


ふたりの感性は
死んだ店主の残した頑固さという遺産をうまく消化して
新しい魅力を作り出し始めていた。


ふたりとも
知識欲は旺盛だが
知識でものごとを判断するわけじゃない。
そこがいいのだ。


知ってしまうことよりも
知りたい気持ちを優先するというのかな。


死んだ店主がどういう音楽をおもしろがり
どういうレコードを重んじていたのか。
大切なのはそこをなぞることじゃなく、
そこから始めることだと
直感的に知っている。


そういう直感は
女のひとの方が絶対にすぐれているのだ。
男子にはわるいけど。


「この街に来る楽しみが増えたよ」
大江田さんも満足そうに言った。
収穫は大量。
中身は興味津々。
その両立ほどうれしいことはない。


さて、この長屋的な家には
実は半地下的なスペースにもう一軒
レコード屋があるのだという。


そこは個人経営店というより
個人ディーラーたちがレコードを持ち寄って委託で販売する
いわば常設のレコードショーみたいなシステムの店だった。


彼らは店にレコードを預け、
普段は別の仕事をしたり、
地方にレコードを買いに行ったりしているのだ。


そのため、
店番を誰かがしなくてはいけない。


「あいつ、まだいるかなあ」
その店に降りる階段の途中で
大江田さんが妙にうれしそうに言った。
その店番に
ちょっとした思い入れがあるんだとのこと。


店に入って、
カウンターに座る中年男を確認する。
大江田さんは
とっておきの宝物をポケットから見せるときの子どもみたいな顔をして
見ろよとぼくに目で合図した。


あらま。
その男の頭部は黒々として、
今にも滑り落ちそうで、
まるで大きな味付けのりを三枚くらい乗せたみたいだった。


見事に不自然なかつらの男が
不機嫌そうな顔でそこにちんまりと座っていたのだ。


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ドゥーワップ・グループ、タイムズが
63年にヒットさせた名曲「ソー・マッチ・イン・ラヴ」。


ぼくの世代(68年生まれ)では
フィービー・ケイツが主演した学園青春映画
「初体験リッチモンド・ハイ」のサントラで
イーグルスで元ポコのティモシー・B・シュミットが歌った
カヴァー・ヴァージョンが懐かしい。


この曲を
60年代イギリスの女性アイドルだったルルが歌っているのを知ったのは
それほど昔じゃない。
というか、
レコードを持っていたのに
しばらくの間、気がついていなかったのだ。


何故かというと、
そのルルのアルバムでは
「ソー・マッチ・イン・ラヴ」は
「ソー・イン・ラヴ」とクレジットされ、
作曲者はコール・ポーターになっていたのだ。


なにげなくレコードをかけていて
「ソー・マッチ・イン・ラヴ」に間違いないはずの
しかし「ソー・イン・ラヴ」というタイトルの曲が流れて来て、
ぼくは椅子からずり落ちた。


「ソー・マッチ・イン・ラヴ」の作者は
ジョージ・ウィリアムス、ビリー・ジャクソン、ロイ・ストライズの3名。
ジョージ・ウィリアムスはタイムズのオリジナル・メンバーだ。


じゃあ、本来流れてくるべき
コール・ポーターの「ソー・イン・ラヴ」は
どんな曲なのか。


今日入荷したフランク・コーデルの
このドリーミーでちょっとエキセントリックなアルバムで聴けます。(松永良平


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