V.A. Harold Arlen, etc. / The Music Of Harold Arlen

Hi-Fi-Record2009-05-12

The Cool School 7 ふたりの女、かつらの男 その3


ある年の秋、
彼女たちの店をまた訪れた。


聞けば
彼女たちの商売は順調で、
奥の階段でつながっている半地下を
倉庫代わりに借りることにしたのだという。


そこは
去年までは
かつらの男の店があったところなのだが、
街の南の方へ店ごと引っ越していったのだという。


通りに面した店舗になったのはいいが、
営業時間は
すいぶん気まぐれなものになっていた。


彼女たちによると
平日はお昼から4時ごろまでは開いているらしいとのこと。
日曜日にもしやっていれば
2時ごろから5時ごろまでではないかと
教わった。


「いつ開いてるかわからないから
 行ってらっしゃいよ。
 うちは夜までやってるから」


幸運を祈る、とでも言わんばかりに送り出され、
その場所へ向かった。


ずいぶんと寂しい道をくだっていくと
やがて交差点にささやかにお店が寄り添った一角があり、
そのうちの一軒に「レコード」と出ていた。
ここだ、ここだ。


外から見る店内はずいぶん暗く見えたので
わるい予感がした。
案の定、ノブを回してもドアはびくともしない。
開いてない。
昼の3時なのに。


仕方なく翌日出直すことにした。


翌日、一応の開店時間を目安に向かうと
「レコード」のネオンに灯りが点いている。


いた!
かくれんぼしている子どもを見つけるような勢いで
お店に入ると、
じろっとこちらを見るしなびたまなざし。


間違いない。
かつらの男は健在だった。
相変わらずつまらなそうに座っている。


しかし、
お店には地下のフロアもあり
面積だけで言えば以前の倍はありそうだ。


インターネットや
レコードマップとは隔絶した世界にあるこの店を
ぼくたちはこの街の隠れた穴場としてブックマークした。


ところが翌年、
何度もお店の前を通るのだが、
開いている様子がまったくない。
すすけた窓から覗き込むと
確かにレコードは以前と同じようにあるのだが。


以前にもあの男が
ひどく咳き込んでつらそうな場面を見たことがある。
……ひょっとして死んじゃった?


そのことを
彼女たちに直訴めいたニュアンスで話したら、
ブロンド娘の方が
答えてくれた。


「あきらめちゃだめ。
 何度も行くのよ。
 あいつが死んだって話は聞いてないわ。
 きっと会えるから、行ってらっしゃい!」


GO GO GOと背中を押す彼女のその様子が
まるで恋の相談に乗っている同級生みたいで
忘れられない。


そして、その街を去る前日、
かつらの男は
相変わらず、何事もなかったような顔で
相変わらず、まったくやる気なさそうに店を開けていたのだった。(この項終わり)


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5月3日の日比谷野音
細野晴臣さんがハロルド・アーレンの
「ヒット・ザ・ロード・トゥ・ドリームランド」を歌っていた。


そろそろしめっぽい気分を
さらっとぬぐいとる時期が来ている。


今日、この曲をあらためて聴いて
そう思った。(松永良平


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