Al Kooper アル・クーパー / John The Baptist / Back On My Feet

Hi-Fi-Record2009-05-22

The Cool School 11 エリック その1


エリックのことを書こうと思う。
でも、困ったことになった。


この連載は
都市やひとの名前は極力使わないと決めて始めた。
だが、
ぼくの中ではエリックはどうしてもエリックなのだ。
エリックのことはエリックと書きたい。


アメリカで一番信頼できるレコード店主、
それがエリックだ。


エリックのだめなところは
一般的に見れば、たぶん、いっぱいあるだろう。


ひとりものだし、
太り過ぎだし、
サイケデリックに塗装した車の趣味も
どうしたものか。


しかし
レコード屋の店主として
エリックのいいところはその何十倍もある。


ものしずかで、
かといってむっつりしているわけではなくて、
ユーモアを解し、
世事にもうとくなく、
なにしろ博学なのに、
それをひけらかさない。


個人の主張ばかりがまかり通るアメリカ社会で
彼のようなつつましいい人物が
どうやって育まれるのか
すごく興味があるが、
問いつめたりはしない。


何故なら
エリックが最高なやつである理由を
自分で説明するようなエリックは
ちっともエリックじゃないからだ。


エリックの経営している店は
ちょっと普通と変わっている。


エリックが用意するのはお店という巨大な市場で
ディーラーたちはそのテーブルを借りて
自分の商品をそこで売るのだ。
そして上がりの何%かが店の取り分になる。


アメリカの各地で行われているレコードショーのシステムを
営業形態として取り入れたわけだ。
商品の更新も各自の責任で行うという意味では
「ほぼ日」のレコード屋版と思えばわかりやすいかもしれない。


ということは
お店で売るもの、売られる値段について
基本的にはそれぞれのディーラーたちの自由になるのだから、
お店の中はもっとバラバラな雰囲気になってもおかしくないのだが、
ここにはいつも
どこかゆっくりと音楽を楽しめる空気が流れている。


それもひとえに
エリックが長年かけて植え付けた
コモンセンスなのだと思う。


エリックがお店にいるときにかけるBGMも
いかしてる。


あまりに鋭い選曲のシックスティーズが続くので
どのコンピCDをかけているのかと訊いたら、
自分で作ったやつを流しているんだという答えだった。


「最近凝っているのは
 セブンティーズのシングルを編集したやつで、
 モノラル・ミックスのおもしろさもあるし、
 思いがけないヴァージョン違いに出くわすこともあるんだ」


そう言ったあとで
エリックは笑った。


「ほら、70年代のロックのシングル盤なんて
 だれも欲しがらないから」


そんなことない。
エリックのおかげで
ぼくは70年代のシングルを
真剣に探してみるようになったんだから。


エリックの話は
もっといろいろ書きたいことがある。
思い出したときに
ぽつぽつと書いていくことにしようと思っているので、
ひとまず、いつかにつづく、ということで。


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このアル・クーパーのシングルは
いわゆる“コーテシー・オブ・エリック”と
クレジットを捧げるべき一枚。


アルバム「ニューヨーク・シティ」では
前の曲と数珠つなぎになっているうえ
ラストに意味不明の逆回転がついている。


その不満と謎が
このシングルではすべて解けた。
ありがとう、エリック!(松永良平


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