Gnawbone ノーボン / Gnawbone

Hi-Fi-Record2009-05-23

 "演歌やアイドル・ポップスの歌手の場合は、責任を持って歌詞の主人公を演じることになっている"なんてことを、とあるサイトに書いてから、我ながらにこの言葉をヒントにして考えることになってしまった。


 ボブ・ディラン自伝の冒頭、彼がグリニッジ・ヴィレッジに出てきた当初を語る一節に、フォーク・シンガーの多くが自分を歌おうとしているなか、自分は歌そのものを歌おうと思った、と語る一節が有る。


 アメリカ民謡の世界では、バラッドと呼ばれる長い物語歌があり、これを歌う歌手は、つとめて自らを殺して無個性に歌う。その際の態度は、それとなくひとつの伝統をなしていて、おのずと系譜をなしている。このノーボンを聞いていても、遠からず伝統を意識している場所で音楽を演奏している人たちとわかる。


 歌そのものを歌うという態度の取り方の方が、自分を歌うことよりも、歴史が古く深い。
 このあたりを考えることは、ディランの歌を楽しむ際に大いなるヒントではないかとも思う。(大江田 信)



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