スクール・バンド / OUR BEST SONGS NOW

Hi-Fi-Record2009-06-11

The Cool School 19 恐竜とレコード


小さな窓から中を覗き見る。
初めて入るレコード屋の前での
恒例とも言えるヒトコマだ。


これで開いてりゃ、もっといいんだがな。


事前に調べた営業時間通りだし、
今日は定休日でもない。
なのに
この店、
やってない。


こういうことは多くはないが
少なくもない。
シフトやノルマで運営されるチェーン店でもなければ
休むのは店主の自由だ。


だがやはり、
そこで店まで休みにするかどうかで
おのずと性格は出る。
性格だけじゃない。
そのひとの暮らしぶりまで出てしまうと言っていいだろう。


つまり、
代わりに店番をしてくれる奥さんや友人はいないのかね、みたいな。
余計なお世話か。


ともかくも
待っていてもラチがあかないので
今回はこの店はあきらめることにした。


中は暗くて見えないのだが、
店の売り文句が、
いまどき珍しく全商品がアナログ・レコードだというし、
名前には日本語にすると“恐竜”という言葉が使われている。
それって「たくさんありまっせ」という意味かもしれない。


期待をしないでおくわけにもいかないのだ。
必ず次回は来てみせるぞと決意して
ぼくたちは次の街に向かった。


その翌年。


今度こそと気持ちを高ぶらせ、
車で店の前に乗りつけた。


お、ネオンが光ってる。
中にもひとがいる気配。


よし!
力強くドアノブを回し、
店の中に踏み込み、
絶句した。


なんだこれは?


この店、棚がない。
箱すらない。
というか、ここは店なのか?


8畳ほどのスペースの奥に机が一個。
そのまわりの地べたに
数百枚のレコードが
ただもう、でろっと立てかけられていた。
品揃えもコンディションも
まちまちとしか言いようがない。


机に座って何だか食っていた
ひょろっとした中年男が立ち上がり、
ひどくスローモーな口調で話しかけてきた。
「やあやあ……よく来たね……、
 レコード適当に見てってよ……」


……これは店じゃない。
……これは“部屋”だ!


「何で棚がないかって?
 いやー……、何でかなあ……。
 奥の部屋には棚があるよ。
 そこにもいっぱいいっぱいレコードはあるんだ……」


なんだろう、
この脱力感は。
奥の部屋に行ってみたが、
照明もまともにない状態で
何かをつぶさに探しだすことは不可能だった。


「ああ……そうだ……、
 ジュディ・ヘンスキ好き?
 彼女のアルバムをデッドストックで置いてあるんだ……。
 一枚いくらなら買う?」


このひと、
いったい何をしたいの?
ジュディ・ヘンスキもいいけど、
もっとほかにお店のためにやることあるでしょ?


掃除とかさ、
灯りを点けるとかさ、
BGMを流すとかさ、
棚を置くとかさ……。


いや、
店主のうつろな目を見ていたら
すべてが無駄に思えてきた。
何よりも
生気のない店主と話しているだけで
こちらまで体調がわるくなってしまいそうだった。


「大江田さん、もうギブアップです……」
ここに長くいてはいけない。
地の底に引きずり込まれそうになる。


半日はかかると見込んでいたこの店に滞在したのは
結局、一時間にも満たなかっただろうか。
数枚のレコードを買って
外に出た。
ふたたび外の喧噪を目にしたとき、
窮地を脱したインディ・ジョーンズのように、
“脱出”の二文字がぼくの脳裏に焼き付いた。


恐竜は恐竜でも
ここにあるのは恐竜の死骸だ。
レコードの墓場というものがもしあるとしたら
それはきっとこんな感じに違いない。


暖かい季節なのに
ぶるっと震えがきた。


この店に行って以来、
営業日に何の断りもなく休んでいる店に対し
ぼくはちょっと厳しくなっているのだった。(この項おわり)


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スクール・バンドのデビュー・アルバムは
神戸で買った。
10年くらい前だと思う。


「So Long」という曲が好きで
今でもDJするとき、
ときどきかける。


今週もかけるかもしれない。
梅雨が始まって
ちょっと湿気の増してきた季節にかけるのにぴったりの
メロウとウェットの中間ぐらいの甘さ。


なかなかこういうの
ないのです。


以下は告知です。


6/13(土)渋谷サントラントヌフにてDJです。
イベント名は特に聞いてません。
ぼくは22時ごろからかけるようにと承ってます。


お時間ある方はどうぞ。
チャージ不要、オーダーのみです。
たぶん、何となくくつろげる感じだと思います。(松永良平


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