Cy Walter サイ・ウォルター / Rodgers Revisited

Hi-Fi-Record2009-06-15

The Cool School 21 All sales are final.


坂の多い街のてっぺんの
小高い丘のような場所に一本の道があり、
こじんまりとしたその店はあった。


下り坂の上に建てられているので
入り口が2階で
奥に進むと下に降りる階段があり
その先が1階になっている
ちょっと不思議な構造の店だった。


インテリっぽい男女がふたりで経営している店で、
品揃えがするどかった。
フォークやジャズ、欧米以外の世界の音楽に理解があることが
仕切り板からも見てとれた。


1階のように見える2階では
新譜のCDも扱っていて、
そこは男性の方の担当であるらしい。


髪の長い女性の方は
地下のように見える1階で
中古LPを中心に担当していた。


彼女は
60年代終わりのフォーク好きの女性が
そのままタイムスリップしたような感じの出で立ちだった。


ひょろっとしていて背が高く、
もの静かで、
伸ばしっぱなしで洗いざらしの直毛で
丸い眼鏡を鼻にひっかけていた。
映画「いちご白書」に彼女が出ていて
誰かと議論にふけっている場面があったとしても
まったく不思議じゃない。


たくさんレコードを買えるわけではない。
ただこういう気分の店に
ぼくらはよわい。


その街に行くと
必ず通うことが常になった。


あるとき、
壁の貼り紙がふと気になった。


「All sales are final.」とある。


大江田さんの背中をポンと叩いた。


「あれ、どういう意味ですかね?」


ふたりでしばし考えてみた結果、
出て来た結論は
「これですべて販売は終了」というものだった。
つまり、この店、閉店しまうのだ、と。


えー?
そんなこと聞いてなかったな。
まだまだこの店には商売を続けてほしいんだけど。


おそるおそる彼女に訊いてみた。
すると答えは笑いながらのものだった。


「あれはね、
 “返品は受け付けません”って意味なのよ」


ああ、
そうか。
すべての販売は最終です=返品不可。


なるほどねー!


そう言えば
彼女が笑ったのを見たのは
そのときが初めてだった。(この項おわり)


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今日、
携帯電話の店でちょっとした手続きをしていたら、
聴き覚えのある日本のヒット曲を
誰か女性シンガーがカヴァーしたCDが流れていた。


その出来上がりは
べつにどうでもいい。


ただそのとき思い出したのは
カヴァーする側と
カヴァーされる側が
こんな一枚写真に収まることの素敵さだ。


愛情も畏敬も
距離感も緊張感も
全部映り込んだこの写真が
ぼくは相当に気に入っている。(松永良平


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