Hank Crawford ハンク・クロフォード / More Soul

Hi-Fi-Record2009-06-23

The Cool School 25 待ちぼうけ その2


今日は買付は“一時間だけしか”しないからという約束で
弟とやってきた北の港町のレコード屋にて。


街の散策をしてくればと
弟を送り出したらしめたもの。
サクサクと良いレコードを抜いているうちに
一時間経ち、
二時間経ち……。


ハッと時計を見ると
そろそろ三時間が過ぎようとしていた。


そろそろ弟が戻って来るころだ。


最初の一時間目に戻ってきたときは
笑ってごまかし、
二時間目に戻ってきたときは
「ほら、こんなに買えちゃってるんだからしょうがないよ」と
なし崩し的にごまかした。
さて、今度はどうしようか。


弟がコツコツと階段を上がってきた。
心なしか、
歩き方がちょっとおかしい。
怒っているのかな。


近づいてくると
お尻の方を押さえているのがわかった。
トイレならこのフロアにあるよ。


そう言おうとした瞬間、
弟の方が先を制した。


弟「待たせ過ぎじゃろ」
ぼく「すまん。思いがけず収穫が多くて」
弟「あんまり待ちすぎて事件が起こったよ」
ぼく「は?」


弟は怒りと笑いが入り交じった顔になった。


「ズボンの、
 ズボンの尻が破けてしまった!」


なんと!
弟の履いていた半ズボンのお尻が
ビリビリと
確かに破けているではないか。


道を歩いているときに
どこかに引っ掛けてしまったのだという。


「こんなに待たせるからじゃ!」


そう怒りながら、
そう怒られながら、
ふたりとも笑いすぎて涙目になっていたのは言うまでもない。


その後、
出歩けなくなった弟は
車の中で待機かつ睡眠を取ることになり、
結局、ぼくの買付は四時間ほどで終わった。


店主は
そんなズボン破れ事件など知らぬふりで
おっとりと会計をしてくれて、
いつものようにディスカウントをくれた。


彼はレイジーではないんだが、
どこかものごとをゆっくり進めるところがある。
でも、それがこの街のテンポなのだと思えれば
妙に合点がしっくりいく。


外では海鳥が鳴いている。
街の時間はゆっくり流れている。


彼はきっとこの街の時間の過ごし方を知っているのだ。
弟がズボンを破る前に
教えてやれたらよかったな。


弟を起こし、
店の隣りにある
昔ながらのイタリアン・サンドイッチを食わせる
パン屋さんで昼飯にした。


少しでも機嫌を直してもらおうと思っての
ささやかな接待だった。(この項おわり)


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こないだラヴィン・スプーンフルの話をしたお客さんのことを
もう少しだけ。


あるジャズ・コーラス・グループのジャケを手にした瞬間から
「いい写真ですね、いい写真ですね」と言い続けて、
結局お買い上げをいただいたのだが、
その写真は
リー・フリードランダーの撮影によるものだった。


フリードランダーは
60年代のアトランティック・レコードの専属と言ってもいいほど
数多くのジャズマン、ソウル・ミュージシャンのジャケ写を手掛けていて、
その偉業はアウトテイクなども含めて
「American Musicians」という写真集にまとまっている。


ぼくはその本が大好きで
ときどきぱらぱらとめくっているので、
お客さんにも是非買った方がよいとオススメした。


ハイファイの近所にある
某巨大CDショップの洋書フロアに売っていたはずだと
そのときは言ったのだが、
彼は無事に買うことが出来ただろうか。


それぐらい
しびれるほどに
「いい写真だ」と言い続けていたんだもの。
本だってそういうひとに買われたいだろう。


このハンク・クロフォードのどアップも
フリードランダーの作品。
思わずじっと見てしまう。(松永良平


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