Alice Babs And Svend Asmussen / Scandinavian Folk Songs Sung An
ハイファイ・レコード・ストアが毎週金曜日に発行しているメールマガジンでも書いたのだけれど、こちらでも少し。
日本に遊びに来ているというスウェーデン人女性が、偶然にハイファイに立ち寄った。
僕のつたない英語と、彼女のきちんとした英語とで、ささやかに会話をした。
スウェーデンの映画でなにか好きなものはある?と聞かれたので、ラッセ・ハルストレム監督の作品が好きで、「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」が好きだと答えた。
ただし、すぐにこうして話が通じた訳ではない。ぼくは映画のタイトルを忘れていた。一人の都会に暮らす少年が母が病気になったので、田舎の村に暮らすようになって、そして、とストーリーをしゃべった。すると彼女はそれは、Mitt Liv Som Hundね、とスウェーデン語で言った。
えっと聞くと、こんどは「My Life As A Dog」と英語で言った。
そうそう、日本では「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」のタイトルで公開されたのだった。
「そうそう、その映画だ」と、僕が言う。「大好きなんだ。ありとあらゆる映画の中でも、ベストかもしれない」と言いながら、ぼくはボクシングの真似をする。映画には、主人公の少年が、男の子を装う少女と、ボクシングをするシーンがある。
するとこんどは、彼女が説明を始める。
主人公の少年を演じたアントン・グランセリウスはね、もう役者はやってないの。政治家になっちゃって。彼はマイケル・ジャクソンと友達なのよ。
へえ、そうなの。ハルストレム監督の映画が好きで、何本か、DVDを持っているなあとこんどは僕。
じゃあ、スウェーデンの音楽はどう?と彼女に聞かれた。
なぜかそのとき、不意に思いついたカーディガンズの名前を挙げた。すると彼女の友だちの友だちが、カーディガンズのギタリストだという。
と、こう話が続くうちに、どうしてそうなったのか、彼女がスウェーデン民謡を歌ってくれることになった。ぼくが上げたささやかなプレゼントのお返しなのだろう。
それはとてもかわいくて、ほんのりとした歌だった。不思議な時間が流れてくるような、それもどこか遠くから聞こえてくるような歌だった。
ああ、そうだ、アリス・バブスが好きだと言えば良かったと気づいた時は、彼女はエレベーターを下りて行っていた。
アリス・バブス。美しき北欧の歌姫。
それともまだ30歳にも満たない若い彼女は、アリス・バブスのことなど知らないだろうか。いや、本国では音楽ジャーナリストをしていると言っていたので、もしかすると知っているかも。
ああ、残念だった。(大江田 信)
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