Jimmie Rodgers ジミー・ロジャース / Troubled Times

Hi-Fi-Record2009-07-06

The Cool School 30 GGアリン


ぼくが今まで出会ったレコード店主の中で
一番の年長者は78歳。


いや、去年78歳だったから
今年も元気なら79歳になったかもしれない。


最初にその店を訪れたとき
彼は73歳だと名乗ったが、
冗談だと思った。


白人特有のものすごい顔のやせ方をしていて
目玉が今にも飛び出しそうな顔は
ホラー映画に登場してもおかしくない感じで、
見た目で言えば100歳以上に思えたからだ。


北の小さな街はずれのさびれかけたモールの一画で
ほかに誰かスタッフがいるわけでもなく
ひとりきりで店を切り盛りしている。


ご高齢なのだから
なかなかレコードの仕入れも難しかろうと思うのだが、
近隣に一軒も中古を扱う店がないため持ち込みが多く、
仕入れには苦労しないのだと
老人はシャッシャッシャッと音を出して笑った。


商品のジャンルは幅広く
ロック、ジャズ、イージーと掘り出し物も多い。


それほどの歳で
まだレコード屋をやっているのだから
よほどの音楽好きだろうし、
偏屈者でもあるのだろうが、
ぼくたちがディーラーだと名乗ると
全品半額という気前の良いディスカウントをくれた。


というわけで
毎年とは言わないが
ある程度のスパンでその店を覗いてみたくなる。


念のため
事前に電話を入れるのだが
「元気にやっとるよ、シャッシャッシャッ」と
返事はいつも威勢がいい。


去年、
その店にはアメリカの友人と一緒に出かけた。
レコード狂である友人には
前もって「すごい年寄りのやってる店だから」と言い含めておいた。


お店に入ると
「シャッシャッシャッ」と老人が奥から顔を出し、
いつものように歓迎してくれた。


だが、
友人は唖然とした顔をしている。
どうしたのだろう?
こんな老人がまだ店をやっていることがショックなのだろうか?


「……オー・ノー……」


彼は立ち尽くしたままかぶりを振っている。


何か幻覚でも見てるんじゃないかと心配になり
「どうしたの?」と声をかけた。


「見ろよ……」


彼が指を指したのは
入り口の右脇に飾られた数々のポスターと、
そして、その近くに吊り下げられた販売用のTシャツだった。


「オー・マイ・ゴッド……。
 GGアリンだぜ……」


そう言われて壁を初めてちゃんと見て
絶句してしまった。


そこには
端正でオールドファッションな店の雰囲気にまったくそぐわぬ
頭から流血しながら全裸で叫ぶ男の姿が……。


以下、友人の解説より。


GGアリンは
アメリカのハードコア・パンク界でその名を知られた異端中の異端なんだ。
彼のパフォーマンスは
絶叫、流血、狂乱、排泄など
この世の俗悪の限りを尽くしたもので、
その度を超したパフォーマンスが一部で熱狂的に支持された。
死の直前のライヴでは
ライヴハウスを破壊し、全裸で歩いて帰り、
その夜、彼はヘロインのオーバードーズで死んだ。
それが93年のこと。


なるほど……(長い沈黙)。


それはわかった。
で、わからないのは、
なんでそんなGGアリンが
老人が経営する北の街の
しずかで穏やかなレコード屋にあるの?


怪訝そうにポスターとTシャツを眺めているぼくたちに気づき、
老人は「シャッシャッシャッ」とまた笑った。


「あれか、あれが気になっとるのか!
 あれはうちのベストセラーじゃよ。
 なにしろこのあたりで売っとるのはうちだけじゃから!
 おまえらも好き者じゃの〜! シャッシャッシャッ!」


あとで調べてわかったのは
その店がGGアリンの生まれ故郷にほど近い街に会ったということ。


帰り道、
友人がぼそっと言った。


「ひょっとして、あのじいさん、
 GGアリンの父親か親戚だったりして!」


アメリカで一番年老いた男の経営するレコード屋では
アメリカで一番過激だったパンクスのグッズを
アメリカで一番熱心に売っている。


いや、マジで
この世界、奥が深すぎますぜ。(この項おわり)


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どぎつい話題のあとには
思いがけない爽やかさを。


偉大なカントリー・シンガーと同じ名前の
A&Mのポップシンガー。


バカラックなどを歌ったアルバムも素晴らしいのだが、
こちらのアルバムは未聴だった。


全曲で
ジョン・バーラー・シンガーズ、
つまり事実上、あのラヴ・ジェネレーションが
コーラスを付けている。


渋い声や
都会的なカントリーサウンド
マッチしているかどうかは
あなたの耳でご判断下さい。


ぼくには
これはひとつの奇跡に思える。
そしてこのアルバム、
実は結構見かけない。(松永良平


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