前園直樹グループ / 火をつける。前園直樹グループ第一集。

Hi-Fi-Record2009-07-07

The Cool School 31 値札のない店


以前に
嫌いなタイプのレコード屋は“図書館”だと書いた。


本当は
もうひとつ好きになれないタイプがある。
それが
値札のない店。


南部に大きな倉庫風の店舗を堂々とかまえる店だった。


夏場ということで
折からのスコールにたたられながらようやくたどり着いたその店は
この近辺では指折りのコレクター向けという話。
気合いを入れて
2階になっている入り口から足を踏み込んだ。


蒸し暑い外に対し、
店内はくらくひんやりとしていた。
そして何よりも尋常ではないレコードの量。
しかもぼくの苦手な”図書館”形式で
棚が幾重にも連なっている。


こ、これは一日中かかりそうだなと
ごくりと唾を飲み込んで
早速探索を開始した。


しかし、すぐに大きなクエスチョンマーク


なんだ、この店、
値札がほとんどないじゃないか……。


店主らしき男に訊くと
「おれがつけてやるから
 抜くだけ抜いてどんどんカウンターに持ってこい」と言う。
その気安さが、また妙に引っかかった。


確かに
レコードの量はすごい。
レア盤もある。


だが、こちらも素人じゃない。
お店の中に漂う、独特の”気”みたいなものには
普通よりずっと敏感なのだ。


これは質量が豊富というんじゃなくて、
何らかの理由で商品が回転しないで
滞ってるんじゃないのかな?


ある程度引っこ抜いて
カウンターに持って行ったとき、
悪い予感は的中した。


店主はおもむろに
コレクター向けのプライスガイドを開き、
ふむふむとひとりごちながら価格を付け始めた。
チラ見したところ、
その価格はガイドに設定された幅の
常に上限を示していた。


こらあ、あかん。


数十枚の値付けを終わり、
「ほらよ」とこちらに返却されたレコードから
かろうじてこれくらいならと思える分を
確か2、3枚ほど抜いただろうか。
「あとはいらない」という意志を示すと
今度は店主が
「こらあ、あかん」という顔をした。


一日かけるつもりだったその店を
結局ぼくたちは一時間程度で退散した。


驚くことに、この値札のない店。
ネット販売も好調なアメリカの名店として
今も営業中。


後出しジャンケンみたいな店が
評判がいいなんて
ぼくにはどうにも解せない。


とある関西のレコード屋さんと買付け先で偶然に出会ったとき
この店の話になったことがある。
そのひとは
「でも、こんなアホになめられたくないと思って
 全部言い値で買ってやったんですよ!」と言い切っていた。


「それじゃ原価割れしちゃいますよ」と余計な心配をしつつ、
その啖呵の鮮やかさに
ちょっと嫉妬した。


それ以来、
「ふざけんな」と思うほどの値段をふっかけられたら、
ときどきそのひとのことを思い出して
わざと買うことにしている。(この項おわり)


===================================


前園直樹グループの第一集「火をつける。」を
まだ聴いていない。


ハイファイで購入しようと思っていたのだが
初回で仕入れたメンバー3人のサイン入り盤は
あっというまに売り切れてしまったのだ。


自分用にと、
実は一枚だけ、こずるくキープをしていたのだが
雨模様の中、
わざわざお求めに見えたお客さんに接していると
何だか申し訳ない気分になり、
結局放出してしまった。


今、店頭にあるのは
急遽追加で仕入れたストック。
残念ながら追加分にはサインはないが
すでに発売元でも在庫僅少となっているそうだからお早めに。


お店の商品に手をつけるのはやめにして
ぼくは別のルートで確保をした。
アルバムは今日、出かける前に家に届いた。
今夜聴こう。


とりあえず
頭の中で針を落として
ざわざわとした胸騒ぎの音だけ先に
今は聴いている。(松永良平