O.S.T. Marvin Hamlisch マーヴィン・ハムリッシュ / The Swimmer

Hi-Fi-Record2009-07-10

The Cool School 31 のど自慢


昼下がりのレコード屋
さくさくと買付をしていたら、
レジの方から思いがけず大きな声の会話が
聞こえて来た。


口論かな?


いや違う。
店を訪ねてきた男性の
声が大きいだけだ。


男性は白髪で
恰幅がよくて
元気もいい老人だった。


店主と何を話しているのか
試聴のヘッドホンをはずして
少し耳を傾けてみた。


店主「何かい? 『アメリカン・アイドル』みたいなことがしたいのかい?」


老人「いやいや、違うんじゃ」


店主「だって、おれらに歌を聴いてほしいんだろ?」


老人「そうじゃよ」


どうも、この老人は
何らかの理由で店主に自慢の歌を披露しようとしているのだ。
店主の言う『アメリカン・アイドル』とは
歌に覚えのある素人たちが全国でオーディションを受け、
勝ち抜き形式で競い合うアメリカの大人気番組のこと。
そう言えば、
この店の店主は辛口審査員の
サイモン・コーウェルに何となく面立ちが似ている。


果たして、この老人が言おうとしているのは
そういうちょっとピントのずれた野望についてなのだろうか?


だが、
よくよく話を聞いてみると、
その本心はとても素敵なものだった。


「いいかい。
 今度、この街で年に一度のお祭りがある。
 その日、わしはどこかの店の前で歌を歌わせてもらいたい。
 どうせなら音楽が好きなひとが集まる店の前で歌った方が
 みんなちゃんと聴いてくれると思うんじゃ。
 ひょっとして、
 わしの歌をみんなが気に入ってくれたらチップをくれるかもしれん。
 でも、わしがチップをもらうのに
 お店に何の断りもいれんのも失礼じゃろ?
 だからこうして話をしにきたわけさ」


店主は「ふうん」という感じの顔をして
「別にかまわんよ」と素っ気なく、
しかしはっきりとOKをした。


そして、
お店の中でこのやりとりに耳を澄ましていた
ぼくも含めた数名の客の内心を代弁してくれたのだった。


「もしよかったら、その歌、聴かせてもらえないかな」


「もちろんだとも!」


次の瞬間、
奇跡のように朗々とした声で
イタリア民謡「オー・ソレ・ミオ」が店中に響き渡った。


イギリスのさえない中年おばさんが
歌ってみたら天使の声の持ち主だったという
最近世界の話題になったあのニュースほどすごくはないかもしれない。


しかし、
これは目の前で起こっている事実で
老人の人懐っこい風貌もあいまって
不思議な感動をもたらす体験だった。


パチパチパチパチ、パチ、パチ。


数は少なかったが
ぼくたちは全員拍手をした。


「もう一曲いいかね?」


老人は
今度は「サンタ・ルチア」を歌った。


イタリア系移民が多く住むというこの街のお祭りの日、
老人はこのレコード屋の前で
きっとたくさんチップを稼いだことだろう。(この項おわり)


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ハイファイでひそかに好評を呼んでいる
名物コーナーよりひさびさに新着のお知らせです。


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トム・アルドリーノから直送の「トム・アルドリーノ・セレクション」!


毎回、驚きの「なんじゃこれ?」アイテムから、
「え? このアルバムにこんな隠れた名曲が?」アイテムまで、
彼の愛情と見識には頭が下がります。


そして、前回もご好評をいただいた
トム・アルドリーノ特製のCD-Rプレゼントを
今回も実施致します。


対象は「トム・アルドリーノ・セレクション」と記載されたLP、7インチと、
トムのソロ・アルバム「ブレイン・ロック」を
お買い上げのお客様とさせていただきます。
対象アイテムであれば、どちらでも結構です。
一枚のお買い上げから対象になりますが、
数に限りがありますので、お一人様につき一枚の配布とさせていただきます。


なお、前回の反省から(即日配布終了)、
特典は余裕を持ってご用意させていただきましたが、
品切れとなりました場合はご了承のほどをお願い致します。
アイテムは連日、少しずつ補充を続ける予定です。


本日の新着でも数点ご案内しています。
また、現在販売中のアイテムについては
ハイファイのトップページ上の「コメント検索」より
「トム・アルドリーノ・セレクション」と打って検索していただけますと
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この「泳ぐ人」のサントラも
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どうぞ宜しく。(松永良平


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