Idleboys / Idleboys EP (3songs CD-R)
The Cool School 35 はじめてのかいつけ その4
ぶうんと小さくうなりをあげて
車はモーテルの地下を出た。
ぼくにとっては
ふたたび試練のナビタイム。
うわうわうわっと地図をめくっていると、
大江田さんは気にもせずに道に出て
ずんずんと信号まで進んで右折。
あれ?
道、知ってるんですか?
「いやあ、
実は何度も来てるからだいたいは知ってるんだよ。
でもほら、それじゃ松永くんの練習になんないから」
なんだそれ!
理屈はわかるけど、
こっちはすごくへこんだっつーの。
ちょびっとプンスカしていると
間もなく車は街の車工場めいた建物の前に停まった。
道路からもよく見える看板には
「U-HAUL」というロゴがあった。
「ここでレコード用の箱を買うんだ」
あ、そういうこと。
「ユーハイム」(=食事)じゃなかったのね。
ドアを開けて中に入る。
なるほど「U-HAUL(ユー・ホール)」は
アメリカの引っ越し用具専門のショップ&レンタル・チェーンだった。
箱、テープ、ひも、パッキング用の資材などの販売から
各種サイズのピックアップ・トラックのレンタルまで
この一軒で引っ越しに関する必需品はほとんど手に入る。
ぼくたちが買うのは
“Small”サイズの箱と、
封をするためのテープだ。
“Small”と言っても
そのサイズは小さくない。
約30センチ角でLPレコードがすっぽり収まって、
縦に100枚ほど詰め込むことが出来る。
ハイファイに来たことのあるお客さんは、
組み上がったものをよく目にしているはず。
ここでは組み立てる前の平たい状態で
何十枚も並べて置いてある。
レコード用の段ボールなら日本でも売っているが、
これほど大きなサイズのものはないだろう。
だいたい5〜60枚入るサイズのものが
普通なのではないか。
レコードって、
それくらいの枚数でも20キロ近くになるし。
待てよ……?
ということは、
このU-HAUL箱は何キロになるの?
………………怖くなったので、
考えるのはやめにした。
大江田さんはちょっと考えて
箱を12個口買った。
12×100だとすると、
だいたい1200枚くらい買うつもりだろうか。
「もっと買うつもりだけどね。
足りなくなったら、また買い足しすればいい。
U-HAULは全米のどこにでもあるから」
そして、
受付カウンターの手前にぶら下げてある備品類から
テープを二個、ひょいと手に取った。
このテープ、
地肌は透明なのだが
縦に数本の筋が通っていて
横や縦からの衝撃に強いということらしい。
これは日本では見たことがないな。
会計を済ませ、
車のトランクに箱とテープを詰み入れた。
「さて、
ではいよいよ最初のお店にお連れしましょう」
この道をずうっとまっすぐ行った右側にあるのだと
大江田さんは言って、
楽しそうに車を発進させた。
「あ、一応、地図で確認はしておいてね」
そう言われてあらためて地図を見る。
この街の地図はいくつか用意してもらったのだが、
ひとつだけ、少し使い込んだものがある。
その地図を広げてみると
レコード屋のポイントが
街のいたるところに書き込まれていることがわかった。
「歴代のハイファイのスタッフが
その地図に書き込んで来たんだ」
そのとき
ぼくを憂鬱にさせるばかりだったこの地図が
急に頼もしく輝いて見えたような気がした。
いや、きっと気のせいじゃなくて
レコード屋が近づいてくると
この地図は本当に光るに違いないよ。
きっとそうだよ。(この項つづく)
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今年の初め、
彼らは突然お店に現れ、
「このCDを聴いてください」とこれを渡して帰っていった。
結局、聴いた瞬間に取り扱うことを決めたのだが、
そのときのぼくの正直な反応が
コメントにも現れている。
以下抜粋。
名前が「アイドルボーイズ」? 半信半疑で聴いてみてビックリ。
これは上質のエレクトリック経由J-POPなダンスポップ。
インディーズ精神がきちんと底に脈打っているので、
すすっと耳に入ってきました。
エイティーズのようで今の時代でなくては出来ない音になっています。
これ(↑)は商品コメントなので
私情はあまり挟まないようにしている(挟んでるかも)。
もっと言うと
彼らの音には恥じらいがあって、
そこがいいと思う。
恥じらったまま、前に出でいくバンドであって欲しい。
実は今日、
彼らがふたたびお店にやって来た。
新しいミニ・アルバムのレコーディングで上京していたのだという。
その出来立てホヤホヤの(というか、まだ半分未完成の)トラックを
聴かせてもらった。
ちゃんとした感想は完成品を聴いてからにしたいけど、
ハイファイでIdleboysのCD-R売ってますよ、
“初期の”Idleboysですよ、と
急に声に出したくなった。
心がちょっとざわっとしたのだ。
是非、ご試聴を。(松永良平)
試聴はこちらから。