Paul Williams / Just An Old Fashioned Love Song

Hi-Fi-Record2009-07-21

The Cool School 36 はじめてのかいつけ その5


「うわー、広いー」


そう言って
ひどく興奮していたのだという。


大江田さんから「あのときの松永くんはねえ」と
ことあるごとに繰り返し聞かされる。
初めての買付、
初めてのお店、
そこに足を踏み入れたときのぼくのこと。


きっと遊園地にやって来た子供みたいに
あどけない顔になっていたのだろう。


田舎の体育館ほどの広さがあるその店は
CDとLPで売り場をだいたい半々にしていた。
今まで随分いろんなレコード屋を見て来たつもりだが、
これほどの広さの店をまだ見たことがなかった。


「松永くんは“Rock A”から見てくれる?」


言われるがままに
“Rock A”のセクションを探し……と言っても
たどり着くだけでもひと苦労。


「最初はこのリストから拾っていくといいよ」


渡されたリストは
ロック、ジャズ、レリジャス、フォークなどに区分けされた
ハイファイの人気アイテムを記したものだった。


「もちろん、
 松永くんがいいと思うものがあれば
 載ってないレコードでも買っていいよ」


そう言われて
「おれだってレコード屋実働歴は長いんだ」とその気になり、
引っこ抜いた一枚が、アポロ100の「ジョイ」。
この話、にも書いたことがあるが、
さわやかな失敗だった。


もちろん、
それまでもニューヨークの中古レコード屋は経験済みだったとは言え、
それは自分の趣味の世界の話。


ハイファイで人気とされているリスト掲載アイテムには
まったく知らないレコードも数多く含まれていて、
ひとつひとつチェックしながらの探索には
結構な時間がかかった。


それでも何とか100枚くらいは買えたかなと
ようやくひと息ついたころには
外はもう暗くなっていた。


「何時間いたと思う?」


まだ一時間ちょっとくらいかと思ったら大間違い。
店に入ってから、軽く4時間は経過していたのだった。


確かに立ちっぱなしの足は充血してじんじんしていたし、
時差ぼけというやつなのか、
少しくらくらもした。


お店は夜遅くまで営業していて、
支店がこの先のダウンタウンにもあるという話だったが、
今日のところはモーテルに帰ると決まった。


今日の夕食は
帰りがけにあるスーパーのデリで
テイクアウトのチャイニーズフードになるらしい。


「ビールも一緒に買わなくちゃ」
うれしそうに大江田さんは言った。


どうやら、
初めての買付はぎりぎりで合格点をもらったらしい。(この項つづく)


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先日、
とあるブログを訪れてみたら、
ビール研究家マイケル・ジャクソンの著書がずらりと紹介されていて
笑ってしまった。


知らなかった。
同姓同名のマイケル・ジャクソン
そんなところにもいたなんて。


ぼくの知っている同姓同名マイケルは
このポール・ウィリアムスのアルバムに
プロデューサーとして名を残している。


浅学にしてこのひと(おそらく白人)について
ほとんど情報を持たない。
ただ、ジャクソン5旋風が吹き荒れていたこの時代(1971年)に
マイケル・ジャクソンでいることは
なかなか苦い話だっただろうな。


今はもっと大変かもしれないけど、(松永良平


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