三上 寛 / 負けることもあるだろう

Hi-Fi-Record2009-08-03

The Cool School 41 フランク・ロイド・ライトに捧げる歌


随分久しぶりに訪ねる店で
前に行ったのは十年以上前だからと
事前に電話をしておいた。


そのとき電話を担当してくれたひとが
「頑固そうなおじさんがやってる店ですよ」と言うので
そういう心づもりで出かけたら
店番をしていたの、おばあさん。


あれ?
店主は今日は休みかな?


そう思いつつ、いろいろ見ていたら
「あんたたち、どんなんが好きなの?」と話しかけてきた。
そして、その声を聞いて
すべて合点が行った。


ああ、おじいさんだと思っていた声は
声の低いおばあさんだったんだ。
眼鏡の奥にのぞく目線は
彼女が頑固者であることも十分に物語っていた。


「試聴をしていいか」と聴くと
彼女はちょっと風変わりな意見を述べた。


「うちの商品に試聴しなきゃ買えないような変なのはないよ」


うーん、
確かに頑固者。


彼女の風格がなかったら
言われた方は怒りだしてしまうかもしれないけれど、
彼女の人生の長さが
うまく説得力に乗り変わっているというか、
そう言われたらしょうがないかという気に
自然とぼくらはなってしまった。


それでも十数枚の収穫を掘り出して
彼女の店を跡にした。
試聴が出来ないということもあって、
予定したよりも随分はやく終了してしまった。


天気のいい昼間だった。
店の近所に
建築家フランク・ロイド・ライトの記念館があることを
通りがかりに見かけていたので
急にぼくはそこを訪ねたくなった。


フランク・ロイド・ライトと言えば
サイモン&ガーファンクルも歌にしたよなと思い出すのだが、
残念ながらそのメロディが思い浮かばない。


思いつきで適当にハミングをしながら
公園を横切って
ぼくは記念館に向かった。(この項おわり)


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三上寛については
歌よりもテレビドラマか何かで見かけた
太っちょの性格俳優として認知していて、
彼が歌うのを聴いたのは
大学生になってからだった。


このLPは
ぼくが上京した80年代末にもすでにレア盤だったと思うが、
当時ぼくがバイトを始めたお茶の水の中古レコード店
偶然にも聴くことが出来た。


この声は
ひとに聴かせていいものなんだろうかと
慄然したことを覚えている。


ジャズフロアーで働いていた
ボクサー志望の先輩は
このアルバムのタイトル曲を聴くと
泣きそうになってしまうと言っていたが、
当時のぼくにはそこまでの理解力はなかった。


今なら、
すこしはわかります。


ジャズの雑誌で三上さんがコルトレーンの音楽について
初めて聴いたときに吐いてしまったと
書いていたことも何となく覚えている。


その感受性の強さに
おののいた。
今、
ぼくは三上寛のレコードはめったなことでは聴かないが
それでも仕事などで聴くたびに
そのことは必ず思い出す。


(追記)
三上寛については
また別に思い出したこともあるので
明日、また書きます。(松永良平


試聴はこちらから。