小沢 昭一 / 小沢昭一の小沢昭一的こころ

Hi-Fi-Record2009-08-06

 ハイファイのブログでは、スタッフが掲載当日に販売されているレコードのことを書く。暗黙のルールである。しかし、今日はそれを破りたい。


 このレコードが店頭に並ぶのを見ながら、ああ、ブログで書きたいと思っていたら、その日のうちにお買い上げがあった。もちろんそれは大変に有り難いことは、言うまでもない。しかし、ブログに書き残したかったささやかな思いは、その後も消えなかった。


 アルバムには、ハーモニカが欲しかったんだと歌う「ハーモニカ・ブルース」が収録されている。
 戦後に外地から復員してきて、荒廃した東京でやっとの思いでハーモニカを手に入れた、そして吹いたんだ。戦争に負けたんだ、カボチャばかり喰っていたんだ、と歌う。
 ハーモニカは、戦地で渇望した自由の象徴だったのだ。


 小沢さんは、とつとつと語るように歌う。
 作詞は小沢昭一谷川俊太郎、作曲に小沢昭一シンガー・ソングライター小沢昭一の作品である。
 まだまだ街に戦後の空気が残っていた時代に育った僕には、この歌の感じが少しわかる。
 

 一度だけ、ライヴで聴いたことがある。
 歌の途中で伴奏が止むと、手にしていたハーモニカを小沢昭一さんが吹いた。
 素朴で、悲しくて美しいメロディだった。
 胸が詰まるような気持ちになった。


 戦前から学校の音楽教育の現場で用いられてきたこともあり、相当の日本人にとって、例えば団塊の世代の父母にあたる多くには、ハーモニカとは何がしかの思いを強く残した楽器であり、響きだったのはないかと思う。
 僕の父もハーモニカを吹いたらしい。一度だけだが、演奏を聴いたことがある。こんなに楽器が上手い人だったのかと驚いた。ただし、なぜかあまり吹きたがらなかった。


 今日は広島に原爆が落とされてから64年目にあたる日だ。
 終戦記念日に向けて、これからメディアでは昭和の戦争をめぐる記憶が様々に語られるだろう。


 小西康陽さんがプロデュースした夏木マリさんのアルバムに「戦争は終わった」とする作品がある。
 「戦争を終わるべきだ」ではなく、もちろん「戦争を終わらせよう」でもなく、「戦争は終わった」として題するタイトルに込められた願いを、ぼくは思う。(大江田 信)



Hi-Fi Record Store