めんたんぴん / MENTANPIN

Hi-Fi-Record2009-08-10

The Cool School 43 憎まれオヤジは世に何とやら


アメリカのレコード屋はただでさえ
日本に比べて開店が早い。


中でも
この西海岸の店はきわめつけ。
朝8時半から開いているのだ。


この界隈では名門と言われた店で
かつては支店をいくつか出していたくらい。


時流の変化に追いつけなかったのか
徐々に店を閉めたり
権利を売ったりして
今は本店だけしか残っていない。


年老いた店主にしてみれば
残念さはあるだろうが
スタートしたころに戻ったと思えば
せいせいしたという面もあるのかもしれない。


「いや、
 あいつはそんなさわやかなオヤジじゃないよ」


大江田さんは言う。


「あいつは
 日本人の客が買ったレコードは全部ノートに書き留めて
 次から値段を3倍にするんだ」


そんなバカな。
しかし、いろいろとレコードを見ていると
大江田さんの証言はあながちうそではないことがわかる。


ハイファイの売れ筋アイテムって
軒並み高くなってるじゃないか。


ぶつぶつと言いながらレコードを見ていたら
オヤジが眼鏡の奥からこちらをジロリと見た気がした。
確かにその目は笑ってはいない。


会計のとき
店主は大江田さんを覚えていたらしく
「ハイ、ハウアーユードゥーイン」と話しかけてきた。


この親しげな素振りも
腹芸ということなのか。


「おれはガンでね。
 もう死ぬんだ」


ウソかほんとか、
店主は力なく笑った。
そして、
少しだがディスカウントをしてくれた。


店主がまけてくれたのは初めてだったらしい。
大江田さんはちょっと狼狽していた。


「そうか、あいつ死ぬのか……」


喧嘩相手がいなくなるのが寂しいような
そんな雰囲気でぼくたちは店をあとにした。


それから数年が経った。


実はその店、
今も毎朝8時半から営業している。
店主も元気だ。
最後に行ったときは
やっぱり前に買ったレコードは3倍の値段で
おまけにディスカウントもしてくれなかった。


どうやら良い薬を使っていると見える。
もしそれがほんとなら
ぼくらのせいで値段が3倍になったレコードが
少しは貢献してるのかもね。(この項おわり)


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石川県には一度だけ行ったことがあるが
金沢だけ。


一度小松に行ってみたいと思うのは
めんたんぴんのせいだ。


風街ろまんとも
めんたいロックとも違う
このロックに興味があって
よく聴いていた時期があった。


ところで
めんたんぴんと言えば麻雀用語。


ハイファイでひそかに麻雀が流行していることは
あ、内緒でしたっけ?(松永良平


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