Les Paul And Mary Ford / Hits Of Les And Mary

Hi-Fi-Record2009-08-14

 「レス・ポール氏が8月13日に、ニューヨーク州の病院で肺炎のため死去した」という記事が新聞に載っていた。94歳だったという。


 数年前にマンハッタンのジャズ・クラブ、イリジウムレス・ポールのライヴを見た。
 毎週月曜日の夜、7時lと9時半の2回行われているライヴの遅い方の回に行った。
 バックバンドの演奏が始まってほどなく、ギターを抱えたレスがステージに登場して、ハイ・スツールに座る。そしてあの音色のギターが響いた。
 なによりビックリしたのは、タッチが正確なこと、音程がいいこと。耳が健在なのだろうと思っていたら、その後のコーナーでステージ上のゲストとのやりとりも、何の問題も無くこなしていた。そういえばこのコーナーが秀逸で、全米からやってきた様々なセミ・プロ、素人の音楽家がステージに立ち、レスへの思いを込めて演奏するというもの。それをスレージ上のレスが楽しみ、時には演奏に参加する。ここでのレスは、いささか下品な下半身ジョークをバリバリ繰り出していた。
 この間まで、俺たちのバンドにひとり、女性がいたんだ。その頃は、俺たちはレス・ボール・トリオって言っていたんだぜ。ゲヘヘ。的なジョーク。とても枯れてしまったお爺さんのジョークとは思えない。90ウン歳にして、十分にお元気な口ぶりに笑わされた。
 この日は、客席にいたバッキー・ピザレリを見つけ、ステージに呼び出して、一曲演奏してもらうというオマケも付いた。

 
 終演後、トイレに立ったら、となりの男性から声をかけられた。まったく、ばかばかしいジョークばっかりかと思ったら、演奏は素晴らしかったね。
 うんうん、そうだねと、二人、壁に向かいながら会話をした。


 コンサートが終ると、こんどはレスが客の一人一人にサインをした。
 長い列の最後の方に並んだ僕らの順番がきた頃は、もう夜も1時に近かった。
 そのときにもらったサインは、ハイファイのレジの向かいの壁にかけてある。


 あの夜の記憶をたどりながら。
 レス・ポールとメアリー・フォードによる「世界は日の出を待っている」を聴こう。(大江田信)


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