Bob Summers / The Second Coming Of The Bob Summers Revival

Hi-Fi-Record2009-08-20

The Cool School 48 おわりのはじまり はじまりのおわり その3


レコードショーという催しは、
世界中のコレクターや目利きディーラーたちが集まる
大規模のものを除けば、
基本的には
レコード好きの人間たちのために
定期的に行われる地元の寄り合いというか
心のオアシスみたいな面が大きいと思っている。


ぼくがアメリカに買付で行き始めたころ、
おどろいたことのひとつが
レコードショーに集うひとたちの高齢ぶりだった。


一般のレコード店ではもはや見かけないような
白髪でしわくちゃな顔をした老人たちが
嬉々としてレコードを運び込んでは
ああでもない
こうでもないと
仲間たちと音楽話に花を咲かせている。


彼らの多くは
すでに仕事をリタイアして
趣味の一環としてレコードを集め、
レコードショーでそれを売り、
それなりに生計を立てている。


2、300キロの移動なら平気でこなすアメリカ人のこと。
その気になれば隣の州にも顔を出せるから、
毎月、一度や二度の商いは出来るわけだ。


それが
あるときから
ショーに集まるひとびとの顔つきが
少しずつ変わり始めたと感じるようになった。


中年、もしくは若者たちが
老人たちの出す良い意味でいい加減な値付けのブースに群がっては
ざくざくとブツを抜いてゆく。


彼らがしている会話にも
かつて老人たちが交わしていたような
「あんときのエルヴィスは……」みたいなのんきさがない。


「最近、おまえんとこのeBayはどうだい?」
「まあまあだな」
「こないだはジャパニーズが競っておもしろかったぜ」
とかなんとか。


ある古株のディーラーがぼくにこぼした。


「昔はコンベンション(レコードショー)でのバイ&セルは
 そのショーの中だけの出来事だった。
 あるいは、店を持ってる連中同士が
 情報やレコードをトレードする場所だった。
 それが今じゃ、
 おれらには顔もわからない素人ディーラーたちの溜まり場になってる」


ある面では
レコードショーは
以前よりとてもにぎやかになった。


しかしそれは
レコードショーという寄り合いが持っていた
どこか閉ざされた空間ならではの居心地の良さが
にわかネット・ディーラーの出現という“外資系”の出現により
浸食、陵辱されている光景だとも言えた。


いかにも素人という風体の中年男が
年配のディーラーに質問を浴びせかけているのが見える。


「なあ、このレコード、ネットだったらいくらぐらいで売れるかな」


困ったような笑いを浮かべながら
ディーラーは彼をやんわりとかわしていた。


ぼくにもいくつか
あの雰囲気がなくなってほしくないと心から思う
大切なレコードショーがいくつかある。


最近は
そこを訪れるたびに
何か変わってやいまいかと
ひやひやしているのだ。(この項不定期に続く)


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売れそうもないジャケの
売れてほしいレコード、ナンバーワン。


マイク・カーブの音楽制作において
実質的なアレンジなどを担っていた才人ボブ・サマーズの
このアルバムがそれ。


デビュー・アルバムなのに
「リヴァイヴァル」を名乗ってしまうセンスが
すでにおかしい。


アメリカ人なら誰でも知っている伝承曲を
ばりばりに後期ビートルズなセンスで解体し
再構築してみせた
「ペット・サウンズ」の裏の裏の裏の裏。


いまだ謎の多い人物のひとりでもある。


残暑がまだまだ蒸し暑いと感じたら
彼のヴァージョンの「我が心のジョージア」を是非。(松永良平


試聴はこちらから。