Don Choate ドン・ショート / Thursday’s Children
このレコードを見つけた街のことは、よく覚えている。
州都から州都へと向かうハイウェイを東に走り、次の大きな街である州都の小一時間ほど手前のインターチェンジで、ハイウェイを降りる。そこから南へほんの十分ほど走った街。大学を擁し、そこに通う学生や関係者の住宅があり、また州都への通勤圏でもある。日々を暮らすための街だ。
大都市の喧噪とは無縁、おだやかな空気が漂う。
ささやかな街。シティではなくて、タウン。こういう街が、一番いい。
その街で、初めてこのレコードを見つけた。
穏やかな陽射しのただよう商店街の入り口近くに、ショップはあった。街路にはベンチが置かれていて、陽射しを遮る街路樹が並んでいる。
いかにも無頼で、いかにも気ままで、それでいて人生の辛苦をさりげなくにじませていて。
ジャケを見て、そして選曲を見て思い描いた雰囲気と、そう遠くない内容だったので、なんだかやたらと嬉しかった記憶がある。
何枚か、それほど数多くはない釣果を持って、ぼくらは店を出た。店を出て、さらに下ったところの十字路にあるサンドイッチ・ハウスで、昼食を取った。
ただしこのレコード店、その街の雰囲気にぴったりとはまっているようでいて、実はそうでもない。レコードの扱いに愛情がない。雑だ。値段の付け方も、傲慢だ。同行の松永クンは、それが許せない、アメリカでも一番嫌いな店だと、これは今でも問わず語りに言う。
長いドライヴの途中では、好きなレコード店ベスト10とか、嫌いなレコード店ベスト10などを言い合いながら、時間をやり過ごす。
そんな時に必ず登場する店なのだ。
このところ記憶力がいささかダメな僕は、このストーリーももしかすると間違いかもしれないと恐れながら書いている。
しかしこの店と近くのサンドイッチ・ハウスの関係は、間違ってない自信がある。
買い付けと言う過酷な時間を一緒に過ごす仲間には申し訳ないけれども、どこで何を食べて、何が美味しかったのか、あの広いアメリカに70回くらい通ってもなお、それだけは自信を持って覚えている。あのサンドイッチとスープは、ピカイチだった。(大江田信)
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