Beirut ベイルート / Gulag Orkestar

Hi-Fi-Record2009-08-24

The Cool School 49 おわりのはじまり はじまりのおわり その4


お店の前に車を停めて
おどろいた。


店の広さが半分になってる!


去年訪れたときは建物の二棟を借りて
片方は新譜のCDやLP、片方は中古LPという感じで
精力的に営業している店だった。


新譜の方では
最近のインディーズのトレンドを敏感に察知した品揃えが行われていて、
ぼくも大江田さんもこの店に行くことを
ひそかな愉しみにしていた。


いやな予感を抱きつつ、
立て付けのわるいドアを押し開けた。


「ハイ」と眼鏡の店主にあいさつをして
視線を店内に向ける。


…………あ。


そういうことか。
店内からCDがほとんど消えていた。
中古も新譜も
ほとんどアナログLPだけの店になっていたのだ。


何か言いたげな顔をしているぼくに気がついて
店主が先を制した。


「隣を借りるのはやめたんだ。
 CD・イズ・デッドだからな」


CDは死んだ。
アメリカでのCDソフト売上の急激な減少は
音楽業界の大きな話題になっている。


日本よりもずっと大胆なスピードで
ダウンロードへの移行が進むアメリカ。
音楽ソフトの主要な購買層である
ティーンエイジャーや20代を中心とした若年層の意識に
もはやCDへの関心は薄い。


当然その波は中古市場にも進み
中古CDの叩き売り状態は激化している。
一昔前までは万引き防止のため中古CDからは
盤はすべて抜いた状態で販売されていたものだが、
今ではその光景もあまり見かけなくなり、
中身を入れたまま堂々と販売されていることが多くなった。
売れないから万引きしても割にあわないのだろう。


アナログ中心への移行。
一見、時代への逆行のように思えるが
これは消極的な選択ではない。
アメリカでの(ひょっとしてヨーロッパでも)アナログ復権
かなりのスピードで進んでいる。


新譜で制作されるアナログも
リイシューされるアナログの数も
毎月増え続けているという印象だ。


そこには
DJ的な価値基準とも違う
所有のうれしさや
歴史への興味、
そして何より
データで音楽を聴く反動からなのか、
音の出るメディアとしての新鮮な実感を尊ぶ気持ちが
新たな音楽ファンたちにも確実に生まれている。


意欲的な復刻も減り
日本の音楽市場の元気のない状況とは対照的に思える。


もちろん
日本には日本の音楽ファン気質があり
一概に欧米と比べることは出来ないけれど、
ひょっとして日本人が今あたえられている音楽状況は
すごく世界から取り残され始めているんじゃないかと
暗澹とした気持ちになることが少なくない。


じゃあ日本人もレコードをどんどん買えばいいってわけ?


いやそうじゃない。
言いたいのは
古かろうが新しかろうが
新しい気持ちで音楽の接してるかってことなんだ。
たとえCDでも
そこさえ失わなければ、まだ光はある。
あるはずなんだが……。


そんなことをぶつぶつと思いながら
レコードを掘り続けていた。


「これからはレコードだけでやるんだね」


会計のときにあらためてそう訊くと
店主は笑った。


「レコードはグッドだ。
 新譜も中古もよく動くよ」


なるほど。
だからちょっと中古の値段が前より強気になってるんだ。
ほんのり苦く笑いを返したつもりだけど
店主は気がついたかな?(この項不定期つづく)


===================================


そんなアナログ復権の時代を意識するようになった時期に
よく見かけたベイルートのファースト・アルバム。


東欧のブラスバンドやフォークミュージックというエッセンスが
サンプリングではなく
デフォルトであるという事実が
逆に得体の知れない新しさを感じさせるのだと思う。


……と、ここまで書いたところで
電話が一本。
内容はまだ書けないが
うれしいおしらせ。


きっとそのうち
ご報告出来ると思います。
いやあ、めでたい。
いやあ、うれしい。(松永良平


試聴はこちらから。