50 Guitars Of Tommy Garrett / In A Brazilian Mood

Hi-Fi-Record2009-08-25

The Cool School 50 3人と1匹のダンス


東海岸の大学街のレコード屋で、
夕暮れどきに
レコードを見ながら
仲のいい店員の女の子と
マンハッタンの名物猫が先日亡くなったという話をしていた。


“七番街の市長”と呼ばれたその雄の白猫は
ペット・ショップの名物で
22歳の長命だった。


ぼくはその猫のことは知らなかったが
ニューヨーク界隈では有名人(猫)だったらしく
彼の死を悼むウェブ・ニュースペーパー
彼女に見せてもらったりした。


ぼくも今年の初めに
十年以上飼った猫を亡くしたと言ったら
よけいに同情してくれた。


「とてもかなしい。
 ついさっきファラ・フォーセットも亡くなったのよね」


ため息まじりに彼女は言った。
それを聞いていた別の客が
すぐに反応した。


「スカイ・サクソンも今日死んだんだぜ」


「スカイ・サクソンって、シーズの?」


シーズは60年代のサイケ・ガレージ・バンド。
アルバムはGNPクレッセンドから出ている。


「あらま、シーズのレコード、うちにあったかしら?」


追悼代わりに彼らのヒット「プッシン・トゥー・ハード」でも
かけようというところかしら。


そのときだった。


「オーマイゴッド。
 マイケル・ジャクソンが病院に運ばれたって」


ウェブのニュース画面を見て
彼女の声がひときわ高くなった。


そのわずか数分後、
「うっそ。
 マイケル死んじゃった!」
そう叫んだ彼女の声は
しずかな悲鳴になっていた。


「なんて日だ(ホワット・ア・デイ)」
「鳥肌が立つよ」
「わたしが初めて買ったレコードはマイケルだったのよ……」


それほど混み合っていたわけでもないのに
店内はにわかにざわつき、
わなわなと誰もが思ったままを口にせずにはいられない。
ただし、レコードをめくる指は止まらずに。


3人の死者と一匹の猫が
ぼくたちの思い出をかき乱しながら
指をダンスさせているみたいだった。


ひとつの時代の終わりに立ち会ったというかなしみと興奮が
ぼくがこの日買付したレコードの顔ぶれにも
ちょっと出てしまったかもしれない。


それにしても
西日が射す中で
死者を悼みながら誰もがレコードを見ていた
あの日のレコード屋の光景は
一生忘れられないだろうな。(この項おわり)


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気まぐれにはじめたこのシリーズ「The Cool School」も
今日で50回。


最初は20回も続けば御の字と思っていたが、
やってみれば何とかなるもので
まだまだもうちょっとやれそうでもある。


もうしばらくおつきあいいただけたらさいわいです。


何か「50」に関係のあるレコードをと思ったら
こういうのがありました。


実際にギター50本は使ってないと思うんですが。
数で豪華さを表現するという意味では
101ストリングスとかもあるか。


101回までやれたら
そのときは101ストリングでお祝いを。(松永良平


試聴はこちらから。