Rod McKuen ロッド・マッケン / イン・コンサート
ロッド・マッケンは、自身で設立したレーベルに「Stanyan」、 スタニヤンと名付けた。どのような気持ちからこう名付けたのか、ふと考える。
スタニヤンは、おそらくサンフランシスコにあるスタニヤン・ストリートからとられたもの、と思う。
サンフランシスコ湾の南側、ゴールデンゲイト・パークの東沿いを南北に走る巾の広い道、スタニヤン・ストリートは、公園の緑と街並に挟まれ、晴れの日には日がさんさんとこぼれ落ちる気持ちのいい通りだ。
そういえば「スタニヤン・ストリート」と題するロッド・マッケンの詩があったと思って自宅の棚を引っくり返したら、ピアニストの小原孝さんと作詞家の山川啓介さんのコンビによるCD「鍵盤詩集〜プレリュード〜」に、収録されていた。
山川さんが選んだ様々な詩人の詩に、小原さんがメロディを寄せ、彼のピアノ演奏をバックにそれぞれの詩が朗読されるという作品。
ロッド・マッケンのほかにも、谷川俊太郎、白石かずこ、ジャック・プレヴェール、新川和江、菅原克己など、ぼくの好きな詩人の作品が選ばれていて、思わぬ感性の符合を感じる作品でもある。
「スタニヤン・ストリート」は、山川さんご自身が翻訳されていた。
二人の若い男女の愛の物語り。11月の晴れた日の昼時を、ゴールデンゲイト・ブリッジを北に渡ったノースベイのソーサリートで、カヌーに乗り、コーヒーを飲み、二人は楽しく過ごした。夜半のいま、彼は「生まれる前の子どものように」して丸まって眠る彼女の寝姿を、満ち足りた気持ちとかすかな不安を持って、眺めている。
スタニヤン・ストリート界隈は、60年代末、新たなアメリカを思い描いたサマー・オブ・ラヴの季節に、その中心となった一帯である。ほんの数ブロックも歩けば、ヒッピーの発祥の地とも言われるヘイト・アシュベリーに行き当たり、スタニヤン・ストリート沿いに広がるゴールデンゲイト・パークでは、毎週のように繰り返し集会が催された。
詩は「抱きしめていよう/君とスタニヤン・ストリートの思い出のすべてを/いつかそれがきっと大切になるから」と、結ばれる。
まばゆいほどの青春のひとときを見届けたスタニヤン・ストリートに、ロッド・マッケンの想いが二重写しになっているのだろう。
オフィスはロサンジェルスにもあったにもかかわらず、なぜサンフランシスコの通りの名前を自身の立ち上げたレーベルに名付けたのか、その理由について、まだ僕に確信はない。しかし、こうしていま、彼が歌うスタニヤン・レーベルからリリースされた最初のアルバムを聞いていると、胸が締め付けられるような気持ちになる。(大江田信)