Norman Greenbaum ノーマン・グリーンバウム / Spirit In The Sky

Hi-Fi-Record2009-08-27

 昨日のブログにサンフランシスコのスタニヤン・ストリートのことを書いた。書きながら、思い出した事がある。今日は、それをちょっと。


 サンフランシスコに暮らすディーラー氏と、この界隈を散歩した。
 車を停めたのは、ゴールデンゲイト・パークのなかを周回する道路沿い。さすがに地元に暮らす人達は、タダで車を停められる場所の事をよく知っている。道路を埋めてビッチリと止まる車の間にやっと一台くらいパーキング出来そうなスペースをみつけると、彼は見事なテクニックで車を収めた。あとになって知ったのだが、彼の本職はサンフランシスコの消防署の隊員だった。実際に消火作業に携わってきたらしい。消防車の運転はお手もの。巧みな技術で大きなヴァンを操って、ぎりぎりのスペースに車を入れた。
 もう少しで定年なんだ、それからを楽しく暮らすために、趣味半分、仕事半分でレコードのディーラーを始めたんだ、という。


 ゴールデンゲイト・パークを出て、スタニヤン・ストリートを渡り、ヘイト・アヴェニューを東に向かって歩いた。
 若い時代はヒッピーだったのかと聴くと、ふふっと笑いながら、そうかもしれないと彼は答えた。
 ついさっき通りのタバコ屋で買った葉巻をゆっくりと吹かしながら、少し遠くを見るような目つきをする。ヘイト・アヴェニューを東に向かって歩くと、右の方角から小高い丘を下ってくる勾配の急な道が交差してくる。坂道には古い様式のアパートが並んでいる。一室に仲間が集まってきて、パーティをするんだ、ハーモニカをジーンズのポケットに突っ込んで、いろんなパーティにいってはセッションしたんだと、アパートを指差しながら言う。


  ゴールデンゲイト・ブリッジを渡って北に向かった後、西に折れてしばらく山道を走る。だんだんと森深くなり、そして道が狭くなると、やがて見えてくる山の中腹のへばりつくように建てられている家が、彼の自宅だった。外から見るとそうでもないのだが、中に入ると思いもかけぬほど広い。どうしてこんな山奥の場所の家にしたの?と聴くと、ヒッピーな暮らしをしたかったんだ、という答えだった。
 倉庫のスペースには、レコードが山のようにストックされていた。きちんとアルファベットに整理され、しかもコンピューターで在庫が管理されていた。でもどこかしら素人臭いアマチュアな感じがして、それが彼の人柄を物語っている様で、ぼくはそれがとても好ましかった。


 ノーマン・グリーンバウムもまた、サンフランシスコのヒッピー・エイジを生きた一人だ。
 「スピリット・イン・ザ・スカイ」のヒットを放って後、彼はサンフランシスコ北の小さな町、ペタルマに移り住むと鶏を飼い、卵農家になる。田園を目指したヒッピーの一人である。卵農家時代の歌の数々は、名盤「ペタルマ」に収録された。アコースティックな響きの素朴な音楽が、素敵だ。


 友人のディーラー氏も、共通する気持ちを持っていたのかもしれない。
 彼の家を出て、くねくねと細い裏道を通って半時間ほどの山越えをすると、そこがペタルマの街だと知った時には、とても驚いた。(大江田信)


試聴はこちらから。