Muskrats マスクラッツ / Rock Is Dead

Hi-Fi-Record2009-08-29

 おとといのブログの続きを。


 現役の消防士でもあるディーラー氏と、60年代の界隈の話を聞きながら、ヘイト・アベニューを東に向かって散歩していたときのこと、昼食でも食べようかということになった。


 簡単なものということで、通り沿いのピザ・ハウスに入った。
 店に入ると、そこには丸テーブルと椅子が乱雑に並べられていて、奥に胸ほどの高さのカウンターがあった。カウンターには、ガラス越しに直径が60センチ近くもあるピザが8等分に切られて数種類、並べられている。
 前を行く人たちの注文方法を見ていると、切られたスライス1枚か、2枚のピザを頼み、そして飲み物を注文している。2枚頼む時には、必ずしも同じタイプのピザでなくていい。たとえばアンチョビとマッシュルームのピザを1スライス、そしてもう一枚はパイナップルとハムのピザを1スライスという具合だ。
 店のスタッフは、注文を受けると、そのピザを大きな木製のへらのようなものに載せて、オーブンに投げ入れる。もう調理は終わっているのだから、少し暖め直すのだ。


 飲み物を受け取り支払いを済ませてテーブルに座っていると、暖め終わったピザの順番で、大声で呼ばれる。「プレーン!」とか「アンチョビ!」とか、「ペパロニとブラック・オリーブ!」とか、「カリフラワーとベーコン!」といった具合だ。
 このときの発音を聞き取るのが至難だった。全くわからない。その前に、第一、自分が指を指して頼んだピザがなんと言う名前で呼ばれるのかも知らない。
 キョトンとしているぼくに、ほらほら、キミの頼んだピザが出来たよ、とディラー氏が教えてくれる。
 ピザは紙のトレイに載せられて渡される。食べ終わると、そのままトラッシュに投げ込んでおしまい。1枚で充分、2枚食べたら満腹で動きたくなくなる。このピザ・ハウス、なにより安くて、そして上手い。たしかスライス1枚とコーラで4ドルほどだった。


 これがぼくのアメリカに於ける最もカジュアルなピザの食べ方との出会いだった。そのうちに、アメリカのどこでもこうしたピザ・ハウスがあることを知った。
 日本のシェーキーズのバイキング方式のピザの食べ方より、もっとシンプルで、それでいて好みのピザが食べられる。どこか東京で、こうしていつでもピザが食べられるお店は、無いものだろうか。


 サンフランシスコから生まれて来る音楽は、同じ西海岸の大都市、ロサンジェルスのそれと比べて、ぐんと手作り感があり、とんがっていて、味が濃い。長く西海岸に駐在している日本企業の方たちの間でも、ロスよりサンフラン(と彼らは言う)の方が、暮らしていて楽しい街で、人間味があるという声もある。突然に空がかき曇って雨が降ってきたり、気候の変化があることも、楽しさにつながっているという。ロスは飽くことなく、毎日が快晴だ。


 そんなサンフランシスコを語るに際して、こんなレコードはどうだろう。
 パンク心を満載したエネルギッシュで、人間臭いフォーク。ロックはお終いというタイトルもいい。
 ヘイト・アベニューのどこかで彼らがストリート・ライヴをしていても、ちっともおかしくないどころか、バッチリ似合うに違いないと思う。(大江田信)