The Champs チャンプス / All American

Hi-Fi-Record2009-09-01

The Cool School 53 Records on fire, Records on flood


今日は防災の日


天災や人災にレコード屋が遭う。
あってはならないことだと思うが、
残念ながらそれはしばしば起こる。


北の街の
ある大型チェーン店で買付をしていて
会計のときにレジの脇に奇妙なものが置いてあるのが目に入った。


黒くてぐんにゃりとしたプラスチックの残骸。
それは本来レコードであったはずのものだった。


どうしたのこれ? と訊くと
「去年、火事があって
 アナログ専門の支店が全焼したんだ」との答え。


その猛火の記録として焼け跡から拾い出された焼け残りを
モニュメントとして飾っているのだという。


それを聞いていた大江田さんが思わずもらした。
「おかしいと思ったよ。
 前に来たときは道の向こう側にも店があったもの」


少なく見積もっても数十万枚のアナログ盤が
黒い煙となって空に消えてしまった。


切ない話だ。


同じような話を
東海岸の店でも聞いたことがある。


火災保険は店の再建をある程度保証してくれるかもしれないが、
失われたレコードの価値は
保険ではとうてい換算出来ない。


レコードを襲うのは火事だけではない。


山間の都市で目撃した光景は
今も忘れられない。


とあるレコード屋で店主が話しだした。
「去年の夏、ひどい雨がこの街に降ってな。
 うちは二階だろ。
 だから助かったんだが、あたり洪水になってひどいもんだったよ」


「でも、ここらは川からは遠いじゃないか」と訊き返すと
店主はかなしげにかぶりを振った。


「水は川から来たんじゃない。
 山の上から坂をつたって来たんだ。
 川向こうのシングル専門店は坂の上にあるだろ。
 そのせいで在庫の半分近くがダメになった」


それを聞いて絶句してしまった。


川向こうのシングル盤屋と言えば
数十万枚の在庫を誇るオールディーズ・シングルの殿堂とも言うべき店。
ただし敷居がちょっとだけ高いというか
値段もそれなりに強気なので
ぼくら買付組としては足しげく通うというほどではないのだが、
リスペクトはしている店なのだ。


その話を聞いた翌日、
ウソかホントか自分の目で確かめたい気持ちもあって
川向こうまでやって来た。


外から見て、
なんだ、普通に営業してるじゃん、と思ったのもつかの間、
ドアを開けてふたたび絶句した。


上から下まで壁を埋め尽くしていたシングル盤の棚が
ちょうど腰から下にあたる部分からほとんど姿を消していた。
残っているシングルの多くも
ラベル部分がふやけていたり、茶色く変色したりしている。
泥水があたりを浸してしまったことを
物語っていた。


店を切り盛りしていた店主の姿も見えず、
息子と思われる若者が粛々と仕事をしていた。


「大変だったんだね」と声をかけると
こちらが事情を察したことを飲み込んでか、
「ここを見ろよ」と壁を指差した。


床から1メートルほどの高さまで
壁が茶色く変色していたのだ。


シングル盤とともに生きてきた店主も
落胆のあまりしばらく店に出ていないらしかった。


もっとも
これだけで終ったらかなしいだけの話。


続き、あります。


今年、久しぶりに店を訪れたら
店主は仕事に復帰していた。
シングル盤も全盛期ほどの量ではないけれど、
ずいぶんと増えているのがわかる。


何よりも
店主に「ハイ」とあいさつして
彼の復調ぶりがわかった。


「ほお」という感じで目線をこちらに向けるだけで
愛想もへったくれもない。
そうそう! こういうオヤジだったんだ!
このときばかりはその素っ気なさを
頼もしく感じたのだった。(この項おわり)


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テキーラ」でおなじみチャンプスと
ブロードウェイ・ミュージカルの組み合わせ。


それって食い合わせとしてもギリギリというか
珍味の領域なのだが、
食べてみたらかなりいける味でした。


アレンジャーのジミー・ハスケル
ロックンロールもストリングスもわかる人物だというのも
ひとつの理由だろう。


さらにジャケを見ていたら
もうひとつ気になるポイントを発見。
このミュージカル、
原作がメル・ブルックスではないか。


脚本を担当していた「それ行けスマート」や
監督した映画「プロデューサーズ」で評価を得る以前の仕事らしい。


そりゃ珍味になるはずだ。(松永良平


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