Randy Newman ランディ・ニューマン / Sail Away

Hi-Fi-Record2009-09-05

The Cool School 56 インストア


今日、
ハイファイの常連さんに
ティム・バックリィのCDを聴かせてもらった。


彼がファースト・アルバムを出したばかりの1967年に
NYのフォークロアセンターで行ったライヴが
お蔵出しでCD化されたのだ。


音質も良くて
何よりみずみずしい演奏が素晴らしかった。


さらに特筆すべきは
アルバムのアートワーク
この写真には衝動を抑えられない魅力がある。


若き日の彼が一心不乱に歌う瞬間をとらえているという良さももちろんだが、
体育座りで居並ぶお客さんの醸し出すムードや
室内の装飾、壁に並ぶ雑誌など
全体の意匠に生活感があって、それがたまらないのだ。


どんなに頑張って“それふう”のものを揃えても
決してこの世界には近づけない。
その絶望的な事実を痛感させられるのだが、
困ったことにその絶望の味は甘いのだ。


「これはアナログが出たら、そっちも買ってしまうなあ」
ふたりして意見が一致してしまった。


ただし、
時代や場所こそ違うが
この写真に近い雰囲気に出くわした経験は
ないことはない。


西海岸の街で
インディーズや現代フォークに熱心な店での話。


昼過ぎにお店を訪れると
それほど広くない店内が
やけに熱気むんむんで混み合っている。
おまけにアナログ・レコードは
今は見せられないのだと言う。


この店は一風変わったつくりになっていて
アナログ・レコードは2階に置いてある。
その2階の設計が
1階のCDフロアにせり出すバルコニー式になっているのだ。


そのバルコニーを
今日は封鎖しているという。


何故封鎖されているのかというと
お昼の3時からそのバルコニーをステージ代わりにして
インストア・ライヴが行われるからだった。


そしてそこで演奏するのは
映画「JUNO」のサントラに数多くの楽曲を提供し
音楽面では事実上の主役でもある女性SSW、
キミヤ・ドーソンだというではないか。


なお、このときは
「JUNO」は日本公開前だったが、
インディペンデントなロックの雰囲気を持った映画が
全米の興行収入ナンバー・ワンになったというニュースは知っていた。
アメリカ的には今をときめく存在がやってくる!
そりゃあ混み合うはずだ。


とは言え、
ぼくたちとしては
レコードが見られないのならここにとどまる意味があまりない。
すごすごと退店を決め込んだ。


だが、
店を去ってしばらくすると
あのインストアは見ておくべきではないかという気持ちが
メラメラと燃え盛ってきた。


そうなるともうダメなのだ。


「ねえ、大江田さん……」


甘ったるい声を出してお願いをしてみた。
大江田さんは呆れたような声を出したが、OKしてくれた。
しかし、本音は自分も戻ってみたかったはず。


彼女がどんなシンガーかという興味もあるが、
あのときあそこに集っていた群衆の熱気に
何となく懐かしく愛おしい匂いを感じていたに違いないのだから。


ふたたびお店に滑り込んだのは
午後3時ちょっと過ぎ。
もう始まっちゃった?


ところが、
ライヴは始まっていなかった。


実はインストア・ライヴは直前で中止になっていたのだ。
「彼女が病気になったため中止です」と
大きな貼り紙が入り口に出されていたのでした……。


今日、ティム・バックリィの写真を見たとき
不意にあのときの店の中の光景が頭の中にフラッシュバックした。


あのとき
インストア・ライヴが行われていたら
きっとこんな感じに近いものがあったかもしれない。


……なんてことを言おうと思ったが
話が長くなりそうなので思っただけにしておいた。
だってさ、
なにしろそのライヴ、見てないんだから。(この項おわり)


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お願いだから
一度は生で聴いておきたい歌というのが
いくつかある。


ランディ・ニューマン
「サイモン・スミスと踊る熊」もそのひとつ。


こないだ
この曲を歌う近年のライヴ映像をネットで見つけたが
お歳のせいか
立派な体格のせいか
ずいぶんと歌いづらそうだった。


ところが
歌いづらそうにして歌っていても
この曲の魅力は死なないのだ。


むしろその映像には
彼自身が大きな“踊る熊”になったような
もどかしくもユーモラスな感覚があって、
ピクサー映画のせいで子どもたちのアイドルになったという
うそみたいな本当の話も
まんざらではないのだなと実感させられた。


我ながら失礼な物言いだが、
型通りに褒めないのも
ランディ・ニューマンの愛し方だと思っているので。(松永良平


試聴はこちらから。