はっぴいえんど / はっぴいえんど

Hi-Fi-Record2009-09-07

The Cool School 57 HAPPY END OF THE WORLD


西海岸のディーラーの家を訪ねる。


ビートルズ
オールディーズには目もくれず
マイナーSSWやローカル・レコードを集め続ける彼は
まさにハイファイのために存在するようなディーラーで
なるべく年に一回は彼の家を訪れるようにしている。


州の役所で働く利発な奥さんがいて、
カレッジに通う娘と
高校でバスケにいそしむ息子がいる。


一家の生活費をレコードのディールだけでまかなうには
ひととは違うことをしなくちゃね。
それが彼のポリシー。


大学卒業後、
某大手おもちゃショップで働いた経験のある彼は
レコードが好きなだけのディーラーたちとは
ひと味違った商才を持っているようだ。


彼自身の趣味は
ジャズと60年代サイケ。


プライベート・コレクションの棚には
本でしか見たことのないようなアルバムが
ずらずらと並んでいる。


あるとき、
その背文字の中に見慣れた日本語を見つけた。


「'71年全日本フォーク・ジャンボリー・ライブ第一集」という
ビクターから発売されたものだった。


「こんなのがあるんだね」と彼に訊くと
いいなと思う曲と
まあちょっと趣味じゃないという曲に分かれるんだがねという答えだった。


「だけど、B面の最後の曲は特別だ。
 この演奏はすごいよ。
 で、質問なんだけど
 この連中はいったい誰で
 なんていう曲を演奏してるんだ?」


その答えは簡単。


はっぴいえんど
「十二月の雨の日」。


たいていのヘヴィーサイケや
トリッピーなアシッド・サウンドは聴き尽くした彼の耳を
この曲がつかんだ。


彼らのスタジオ盤はあるのか?
みんなこんなサウンドなのか?
レアか? 高いのか?


いろいろと質問を受けたので
いろいろと答えた。


「そうか、日本ではレジェンダリーな存在なんだな。
 サイケっぽいのはファーストだけか。
 ロスでもレコーディングをしたのか、
 ヴァン・ダイク・パークスと、へえ」


結局、彼の意を得た結論は
ファースト・アルバムは聴く価値がありそうだということだった。


実は
はっぴいえんどのことを外国人に説明するのは
結構骨が折れる。


短期間で劇的にサウンドが変化したということもあるが、
何よりもとまどうのは
外国人の日本のロック・ファンのほとんどは
音が洗練されるという過程に興味がないということだ。


憧れと思い込み優先で
ものすごいパワーを生み出すGSやハードロック、
フリーフォームな実験音楽こそが日本のロックの醍醐味だと
彼ら往年のファンは信じて疑わないふしがある。


したがって
はっぴいえんどの全アルバム中
一番人気を得そうなものは
ファーストの「ゆでめん」ということになる。


「その『ゆでめん』とやらは再発されているんだろ」
ディーラーは言った。
「是非、音源を手に入れたいものだな」


今度来るときCDを持ってくるよと言うと、
彼はちょっと考えて、
まじめな顔で言った。


「いや、CDなら要らん。
 とりあえず再発でもいいからLPにしてくれないかな」


さすがは上等なコレクター。
そこは譲れないんだな。


突然まじめな顔になったのが照れくさかったのか
彼は屈託なく笑ったのだった。(この項おわり)


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今日は余計なことは言いますまい。
これ(上の写真)が、ご存じ「ゆでめん」です。(松永良平


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