Les Baxter レス・バクスター / Music Of The 60’s

Hi-Fi-Record2009-09-08

The Cool School 58 レコードを曲げろ


アメリカ中西部の奥深くに
変わった名前の店がある。


日本語にすると
「レコード曲げ屋」。


日本からの情報では地名もひっかからないような小さな街に
そんな店があるよと教えてくれたのは
そこから30分ほど離れた街にある店の店主。


店主が言うには
その店は夜6時には閉まってしまうのだが、
今日は閉店後にレコード好きが集まる会合をやる予定だから
行けばそのままレコードを見せてくれるはずだという。


「てへへ。
 実はおれもあとで行くことになってるんだ。
 だから大丈夫だよ」


その言葉を頼りに
小さな街を目指した。


全部で3ブロックもなさそうな繁華街の一画に
その店はあった。


確かに閉店は6時と書いてあり、
ぼくたちが着いたのはその20分ほど前。
店主はひとの好さそうな眼鏡おやじだったが、
念のため、さきほどの店の店主の名前を出して交渉をしてみた。


「シュア。全然かまわんよ。
 あとでピザやビールも来るでよ」


日本語にするとそんな感じになりそうなアクセントで
おやじは軽くOKしてくれた。
そしてしばらくレコードを見ているうちに
おやじたちが三々五々と集まりだし、
ああだこうだと世間話が始まった。


居酒屋のないアメリカ社会にとって
これがおとなの飲み会なのだろう。


ぼくたちもピザをひとつまみご相伴にあずかる。
ビールもどうかと勧められたが
モーテルまでの運転があるのでと固辞をした。


まあ、
この連中だって
ほろ酔い加減で車に乗って帰るんだろうけど。
アメリカ人の胃袋にとって
ビールはアルコールのうちに入らないからねえ。


そんなわいわいがやがやを尻目に
店内をくまなく捜索するうちに
奇妙なものを見つけた。


黒いお皿。


そう、それは
レコードを曲げて作ったお皿だった。
レコードのことをよく“お皿”と隠語めかして言ったりするけれど、
これは正真正銘、レコードのお皿。


ラベルを底面にして
熱を加えながら
側を鉢状に上手に盛り上げる。
きちんとしたお椀型にはならず
波型をつけた独特のフォルムに仕上がっているのが特徴か。


針飛びしたり
売り物にならないレコードを
こうして“再利用”しているのだろう。


ぼくが手に取ったお皿は
ジャニス・ジョプリンの「パール」だった。


一応、これは売り物らしいのだが
買うひとはいなそうだ。
だって何に使えばいいの?


案の定、
わるい予感が的中し、
「いいから、いいから」とおやじは
その“お皿”を手に取って何個も渡そうとした。


そこは日本人流の謙虚さで
頭を下げて固辞し、
何とか2個におさめてもらった。


あの“お皿”、
しばらくレンタカーの中に積みっぱなしだったけど、
最後はどこでどうなったのか
今ではまったく記憶にない。


なお、
レコードの“お皿”には
別の場所でもう一度出くわしたことがある。
それがまた泣ける話なのだが
ひとまずは別の機会ということで。(この項おわり)


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キャピトル・レコードのカスタム部門とは
60年代には企業のノベルティ・レコードも多数制作している。


このレス・バクスターのレコードは
アメリカにおける冷凍食品製造販売の先駆け的メーカー
「Van de Kamp’s」の顧客用特典用。


涼しさの演出を
レス・バクスターに頼むなんて
その発想自体がクール!


確か
雨の曲ばかりを集めたカスタム・レコードもあって、
それはタイヤ・メーカーの特典だった。


雨が降ってもすべらない音楽とタイヤ。
洒落として最高。


しばらくキャピトルの特典レコードに注目したいなと
最近考えているのです。(松永良平


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