Jesse Fuller / Jazz, Folk Songs, Spirituals And Blues

Hi-Fi-Record2009-09-09

 サンフランシスコ話のつづき。


 サンフランシスコ半島は、西側に太平洋、東側にはサンフランシスコ湾に面した南北に細長い半島で、日本人の僕たちがサンフランシスコと呼ぶ際には、おおむね半島内の各所となることが多い。
 サンフランシスコ湾を隔てて対岸には、オークランドバークレーなどの街があって、湾のこちら側と向こう側は長い長い橋で結ばれている。
 北から順に、サンフランシスコ・オークランドベイブリッジ、サンマテオ・ブリッジ、ダンバートン・ブリッジの三本だ。


 僕の嫌いなもののトップは、高いところ。高所恐怖症なのだ。そして橋も大嫌い。車で走っているうちに、ハンドルを握る手がじっとりと濡れてくる。
 なぜか歴代ハイファイで働くスタッフ諸君は、この僕の大嫌いな橋が好きだ、と来ている。
 車を運転するのはおおむね僕で、いまのようにナビ付きの車で走ることが当たりまえになる前は、助手席に座るスタッフに地図を見ながらのナビを頼んでいた。するとなんだか橋を渡らされることが多く、どうもあやしい。彼らは誰もが橋が大好きで、僕に知られないようにして橋めぐりを楽しんでいたらしい、と気付いた。


 松永クンも、橋が好きだ。橋を走りましょうよと言う。いいじゃないですか、楽しいですよ、と言う。良くないよと言えないのがこちらの弱みで、橋を使わずに対岸に渡るには、ばかばかしく遠回りになるのだ。
 結局のところ、彼とはこのサンフランシスコ湾を渡る三本の橋を、一緒に走った。橋にはそれぞれ特徴がある。東向きには水面に近く、西向きに走る時には、東向き橋の上にかけられた二階建ての上段を通ることになるサンフランシスコ・オークランドベイブリッジ、やたらと長いサンマテオ・ブリッジ、とにかく水面に近くすれすれを走るダンバートン・ブリッジ。
 なにしろサンフランシスコ湾は、最大幅は15キロメートルに及ぶというのだから、橋の上にいる時間も長い。


 サンフランシスコは、いい街だと思う。適度な気候の変化があり、海産物を美味しく食べさせる中華料理店があり、高低差の激しい街並も旅行者として歩くのならば、愉しみとしてやり過ごすことが出来る。なにしろ自由闊達な空気がある。いい街だと思う、これらの橋さえ無いならば。


 サンフランシスコ湾のことを歌った歌と言えば、ジェッシー・フラーの作った「サンフランシスコ・ベイ・ブルース」だろう。彼女を失った男のやるせない気持ちを綴った、他愛も無いブルースだ。
 ジェッシー・フラーは、ギターを弾き、ハーモニカを吹き、足でドラムを叩きながら演奏する演芸タイプのブルース・シンガー。飄々としている。
 代表作の「サンフランシスコ・ベイ・ブルース」は収録されているアルバムはいま在庫していないが、こちらでも彼の歌の味わいは十分に堪能出来る。他愛も無い歌が、さりげなく並ぶ。だからいい。(大江田信)



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