Todd Rundgren トッド・ラングレン / Runt

Hi-Fi-Record2009-09-10

 橋の話の続き。


 西海岸のその街にも、海につながって内海状態になっている湖がある。そして当たり前のように、湖の対岸とこちら側の街は橋で結ばれている。
 海辺のギリギリまで山が迫ってきていることもあり、街の全体が海に向かって下って行く坂道の上に乗っかるようにして出来ている。しかもそれは、一度崩壊して使えなくなった昔の街の上に建てられた新しい街でもある。
 昔の地下街を廻って歩くアンダーグラウンド・ツアーが催され、観光客の絶大なる注目を集めている。奇妙な構造になっている街なのだ。
 

 湖は海抜百メートルもないだろう場所にある。対岸の街から海側の市街地に戻ってくる場合は、山を滑り降りるようにしながら高速道路を走り、そして湖を渡る。道路は真西を向いている。目前にはダウンダウンのビル街と、太平洋が広がる。
 夕暮れ時にこの高速を走るのは、最高に気分がいい。沈む行く大きな夕陽に向かって飛び込むようにして、車が走る。
 そしてぼくにとってなによりなのは、この橋が湖に浮かぶフローティング・ブリッジだということだ。心安らかに、車を走らせることができる。


 橋の上を走りながら聞いた曲のうちで、最高の一曲がトッド・ラングレンの「I Saw The Light」だった。
 余りの気持ちよさに、ぼくは車の窓を開け放ち、ラジオのヴォリュームを目一杯に上げ、一緒に歌いながらハンドルを握った。
 太平洋に沈む夕陽に向かって、飛び込んで行くような気分になった。
 唯一の難点と言えば、それまで滞在していたレコード店のレジカウンターに預けたカバンを取りに戻る道すがらだったことだ。カバンには、パスポートとクレジットカードと現金が入っていた。
 なにしろこうした忘れ物を、ぼくは頻繁にするのだ。


 あのシチュエーションで、「We Gotta Get You A Woman」を大音量で聞いてもよかった。サビを一緒に歌えることだし。(大江田信)


Hi-Fi Record Store