Mary Travers マリー・トラバース / Mary

Hi-Fi-Record2009-09-18

 昨日の松永クンのブログにあるように、ピーター、ポール&マリーの一員だったマリー・トラヴァースが9月16日、72歳で亡くなった。


 たまたま来店していた浅田浩さんと、マリーの話になった。浅田さんは、トリオがひとたび解散をし、それぞれがソロ活動を始めた時期に、来日ツアーをしたマリーのツアー・マネージャーとステージの司会を担当したという。


 デビッド・バスキンが一緒のツアーだったっけ。彼女がP,P&M3人のなかで一番リベラルだったよね。女性の地位向上といった話を、ツアーの合間にしたりしていたよ。日本ではまだ女性がこんな風に扱われているの?とか言うんだ。


 確かに彼女の両親は左翼的なジャーナリストで、彼女のリベラルぶりも筋金入りだった。トリオの3人の中では、もっともラジカルだったはずだ。
 その彼女にステージの上では一言もしゃべらない方がいいとしたのは、マネージャーのアルバートグロスマンだった。もちろん格別に政治的な話をしない方がいい、としたわけではない。美しく髪の長い知的な風貌の女性が、名花のようにして男性二人の間に立つという様を、彼は演出したかったのだろう。


 マリー・トラヴァースには、二回ほど会った。一回はホテルの一室での取材の際に、そして二回目はその翌日に行われたホール・コンサート終了後のステージ袖だった。
 ああ、昨日会ったわねぇと、彼女は僕に言った。ぼくは彼女に抱きとめられた。横にいたポール・ストーキーが、すれ違い様にウィンクしてくれた。
 彼女は少し疲れていた。なにかしら気が進まない様子だった。でもね、仕事なのよね、とつぶやくように言った。
 素直な言葉をもらったことが、ぼくはとてもうれしかった。あのとき、すでにふくよかになっていた彼女に抱きとめられて肌を寄せた感触は、今でもぼくの体のどこかに残っている。


 マリー・トラヴァースは、若い世代の新進作家の作品を取り上げることに熱心だった。彼女にそうした資質が強くあることに再確認させられるアルバムが、ソロ・キャリアのスタートに配されていたことに、いま驚きとともに改めて気づいた。(大江田信)


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