The Terry Adams Rock And Roll Quartet / Crazy 8’s

Hi-Fi-Record2009-10-05

The Cool School 69 激しい雨が その2


激しい雨の中、
ぼくたちはディーラーに教わったレコード屋にたどり着いたのだが、
店内は雑然としていて
とても名店の雰囲気はない。


携帯電話を片手に大声でまくしたてるウィル・フェレル似の男が
いやな感じだなと思っていたら、
地下に降りようとしたぼくを静止したのが
その男だった。


あんた、この店のひとだったのか。


「待て待て待て待て」


地下に眠ってる(しかも、だれも見ないような)レコードを
これから掘り出してあげようというのに
「待て」とは何事か。


しかし、
男はぼくを制止すると
自ら階段を先に降り、
手招きをしてきた。


「見ろ」


ぼくも階段を降りかけて、
すぐに絶句した。


足下に見えるのは
すっかり水浸しになった床だった。
水かさは数センチ程度だろうが
あそこに足を降ろせばすぐに靴は使いものにならなくなるだろう。


「さっきからこのファッキンな雨でよ、
 ファッキンなパイプがファッキンに壊れてよ、
 ファッキン水浸しになっちまったんだ」


という意味のことを男は早口で言った。
あんまり早口なんで
「ファッキン」しか耳に残らなくなってしまう。


もう20分もしたら修理屋が来るからよと男が言うので
それまでは一階にある
冴えないコンディションのレコードをぺらぺらと見ることにした。
男は説明が終ると
ふたたび携帯を手にして大声で話し始めた。
どうやらそれは野球賭博の電話らしかった。


約一時間経過。


雨は止む気配もなく
修理屋が来る気配もない。
当然、地下は相変わらずたぷたぷと水で満ちたまま。
そしてその間、男は電話で話っぱなし。
いい加減、頭が痛くなってきた。


だがしかし、
これほどいい加減な男がやっているのなら
地下には思いがけないレア盤が放置されているかもしれないぞ。


そう思ってしまうのは
レコードを買い続けてきた者の悪いサガだ。
レコードを大事にしない者のところには
良いレコードはまわってこないという
正統派のセオリーの方を本当は信じるべきなのに
ついついその裏に賭けたくなってしまう。


だが、
どうやら大江田さんも我慢の限界に達したようだ。
こちらに手を振って「そろそろ行こうよ」と合図をしてきた。


「(地下は)次にしますか」


今回はあきらめることにした。
かかった時間の割に少ない収穫を会計のために渡すと、
男は突然思い出したように
7インチの束を取り出した。


「50年代ヴァーヴのジャズでジャケ付7インチ、
 30枚くらいあるんだが一枚15ドルで買わんか」


見せてもらったがコンディションがまちまちで
ちょっと日本では売りにくそうな気がした。


思案していると
男は少し笑って、
「じゃ、全部で70ドル!」


「買った!」


そう言ったのは
いつの間にか店にいた別の客だった。


一瞬にして450ドルが70ドルになっていいのかしら?
何だか狐につままれたような感じで
その店を出た。


「シーユーアゲーン」と男に合図したが
もうとっくに携帯での賭博談義に彼は戻っていた。


「松永くん、あれ、買った方が良かったかな?」
「いやあ、あれでよかったんじゃないですか」


その店が閉店したという報せを受けたのは
それから2ヶ月もしないうちだった。


きっと修理屋が
いつまで経っても地下に来なかったからに違いないよ。(この項おわり)


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いよいよテリー・アダムス・ロックンロール・カルテットの
来日公演が迫ってきました。


あらためまして日程はこちら。


10/10 (sat)
10/11 (sun)
東京・渋谷O-Nest
OPEN 18:00 START 19:00
6,000円 (ドリンク別)


10/12 (mon)
名古屋・今池TOKUZO
OPEN 18:00 START 19:00
6,000円 (ドリンク別)


10/13 (tue)
大阪・心斎橋CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 START 19:00
6,000円 (ドリンク別)


そして本日より
テリQ(勝手に略)初めてのCDとなるライヴ盤「Crazy 8's」の
販売を開始しました。


なお、本CDをお買い上げの方で、
ハイファイ店頭にてテリQ東京公演のチケットをお買い求めの方には、
1公演を対象に5000円(通常6000円)にて販売したします。


前売券は公演当日夕方まで販売しております。
よろしくお願い致します。(松永良平


試聴はこちらから。