The Bobby Hammack Quartet / Powerhouse

Hi-Fi-Record2009-10-11

The Cool School 72 のろのろ地獄 その1


東海岸の北の街に
変わったシングル盤専門店があるというので
スケジュールをやりくりして行ってみた。


聞くところによると
その店、
いい意味で変わっているのではない。


しかし、
思いがけない買物を出来る可能性があるぞと
推薦者がぼくたちに言ったときの
たとえ話がとんでもなく魅力的だった。


「おれはあの店で
 グレン・キャンベルの『ゲス・アイム・ダム』を
 2ドルで買ったんだ」


おお、
そんな話を聞いていろめきたたないやつは
レコード屋じゃないよ。


早速かけつけて
ドアを開けてみた。


あれ?
誰もいない?
というかレコードもない。
4畳半ほどのスペースの奥にカウンターがあるだけで
がらーんとしている。


もしもーし。


しばらくしたら奥の方から
「ぬぼーい」というすっとんきょうな声がして
太っちょの青年がカウンターに現れた。


「ウェール、
 何をお探しですか〜」


そうか、
この店はレコード屋といっても
自分で探せるタイプじゃないんだ。


まるで国会図書館のように
データで管理をして
リクエストに応じて在庫から出してくるというタイプか。
たまにあるぞ、そういう店。


「ええと、いろいろ探してるのはあるんですよ」


「あ〜は〜、曲名はわかりますか〜?」


むむ、なんというか
こいつ間延びしてないか?
それもすごく。


とりあえずまずはじめに
運は試しとばかり
うわさに聞いた例の曲を言ってみた。


グレン・キャンベルの『ゲス・アイム・ダム』お願いします」


「お〜ほ〜ほ〜、レーベルはどこですか〜?」


「ゲス・アイム・ダム」がキャピトルだということも知らないレコード屋
一抹の不安……。
でも、この無知は希望の種でもある。


カモン、2ドル!


「ほ〜、キャピトルですか〜。
 ちょおっと待ってくださいね〜」


男はカウンターの奥にのそのそと入っていった。


5分待つ。
7分待つ。
10分経った。


おい、ちょっとこれ遅いんじゃないの?
しかし、男はまだ出てこない。
思わぬ待ちぼうけをくらってしまったなと思いつつ、
とんずらすることも出来ず
ただひたすら彼を待った。


ごそごそっ。
彼が戻ってきた。
「あったよ!」


え? やった!


「あったよ、キャピトルの在庫ノートがあったよ〜」


え〜、これから調べるんかい!


しかし、こののろのろ地獄はまだ始まったばかりだった。(この項つづく)


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レイモンド・スコットの「パワーハウス」を
人力で再現するクインテット


というかレイスコ(と略してごめんなさい)のヴァージョンも人力なんだが、
こっちのヴァージョンの方が
より人間っぽい。


もちろんレイスコの方も好きなんだけど、
熟練のジャズ職人たちが
ミニチュアの道具を駆使して作る積木細工という感じがして
ボビー・ハマックの方をときどきどうしても聴きたくなる。


ジャズマンとしての後世の評価は知らないが
ボビー・ハマックはぼくにとって
ジャズ人名事典に載るべき重要な名前だ。(松永良平


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