Peter, Paul And Mary / Peter, Paul And Mommy

Hi-Fi-Record2009-10-22

ピーター、ポール&マリーの一員、マリー・トラバースが亡くなって一ヶ月余が過ぎた。この秋に予定されていたツアーはどうなったのだろうと思ってオフィシャル・サイトを見てみたら、キャンセルされたものもあるが、なんとピーターとポールの二人で予定されているコンサートもあった。12月4日のニューヨーク州エストベリー。う〜む、行けるものならば行きたい。


 掲題のアルバムには、ヒットとなった「Day Is Done」が収められている。ピーターが書いた作品だが、この曲はシングルとアルバムのヴァージョンが大幅に違う。アメリカのレコード屋で彼らのシングルを片っ端から聞いているうちに、初めてヴァージョンの違いに気がついた。ヒットしたのは、もちろんシングル・ヴァージョンだ。同ヴァージョンのアレンジには、フリーデザインのクリス・デドリックの名前がクレジットされている。彼はピーター、ポール・アンド・マリーの大ファンだった。こうしてシングル盤を見なければ、思わず通り過ぎるところだった。


 アルバムとシングルの音源に、どうして差異が生じるのか、よく考えてみると、これには様々なケースが想定される。
 ピーター、ポール・アンド・マリーの場合は、シングル盤の録音、ヒット、アルバム制作に際してアルバムの企画意図に沿って再度の録音、こうした時系列で進んだのだろうと想像される。
 

 具体的な例を挙げるのは別の機会にするが、シングル盤が豪華なオーケストラ付きのヴァージョンで、アルバムにまとめられる時にシンプルなアコースティック・ヴァージョンになったもの、アルバムからのシングルカットとして同じ音源からタイミングを短く編集したもの、そうしてひとたびリリースしたものの、物足りなさを感じたのか、イントロにのみギターをダビングしたケースなど、様々なケースによってヴァージョン違いが生まれる。


 最もびっくりしたのは、サンタナの「哀愁のヨーロッパ」。フルにプレイすると5分を超える長さのこの曲を、日本盤のリリースに際して4分弱に縮めて発売した。ご本人の了解を得ること無く、当時のソニーのスタッフによって、それは行われた。
 あるときサンタナご本人が来日することになり、ラジオ番組に出演した。いよいよ時は来た。「哀愁のヨーロッパ」をラジオでオンエアしたのだ。ミスター・サンタナは、その時に始めてショート・ヴァージョンの日本オンリー「哀愁のヨーロッパ」を聞いた。


 番組終了後、彼は何と言ったか? 「いいね、これ」と言ってくれたのだそうだ。ドキドキしながら行方を見守っていた周囲のスタッフは、心底ほっとして胸をなで下ろしたのだと言う。
 これは当時者の方から聞いたストーリーだ。(大江田 信)