Boudleaux Bryant / Boudleaux’s Bestsellers

Hi-Fi-Record2009-10-27

The Cool School 79 ショー嫌い


今や世界で一番にぎやかなレコード・ショーではないかと言われる
大きな街のショーに行ってきた。


普通のレコード・ショーは
だいたい午前中でおおかたの勝負は決してしまうものなのに、
3日がかりで行われるこのショーは
最終日の3日目の午後になっても客足が絶えず、
尋常ではない盛り上がりを見せる。


今年は3日目だけの参戦だったけど
欲張りにいろいろ買いました(おたのしみに)。


さて、
その翌日、
ビッグタウンから少し離れた閑静な海沿いの街まで出かけた。


ぼくたちの大好きな店は
今日も穏やかに営業をしていた。


ただし
この店は
穏やかな態度で
センセーショナルなレコードを
リーズナブルな価格で売るのだ。


店主は
トム・ハンクスをちょっとびっくりさせたような顔をして
口数少なく、てきぱきと新入荷を出している。


「おまえたち、あのショーには行ったのか?」


もちろん、と答え、
「あなたもテーブル出してたっけ?」と訊くと、
店主は意外な反応を見せた。


ふはっとため息をつくように言ったひとことは、
「おれはあのショーが嫌いなんだよ」


そして少し間をおいて
「ひとが多すぎる。クレイジーだ」


うんざりしたように言い、
しかしぼくたちに気を使ったのか、
「いっぱいレコード買えたか、Huh?」と付け足した。


あの大都市の近くに暮らしていて
すごいクオリティのレコードを売っていながら
ディーラーもレコードも過剰に行き来する
あのショーに行かないなんて変わってるなあと
ぼくたちは日本語で(小声で)不思議な感心を口にした。


少しして
近所の老婦人が店を訪れた。


何十年も前から家にあるレコードを買ってくれないかしらと
彼女は丁寧な英語で申し出た。


「何がある?」と店主が訊くと
「そうね、トニー・モトーラとか」と彼女は答えた。


ムード系か、
彼はあまり気が進まなそうだったが、
彼女が今まで一度もガレージセールもやったことがないという発言で
「一度見せてくれないか」と申し出た。


誰の目にも触れなかった場所には
思いがけず古い珍しいレコードも眠ってるはずだと
判断したふうだった。


その日、
彼はおじさんひとり、
CDを売りたいという別のおばあさんひとりを
ぼくらがいる間に相手していた。


どの相談に対しても
そのスタンスは変わらない。
おれはヒップでかっこいいのしか要らないぜ、なんてことは言わない。
うんちくも、はったりもかまさない。
相手のおぼつかない申し出を
真摯に聞いている。


普通の人間たちの相手をまじめにすることで
彼はどんなディーラーにも負けないレコードを
素晴らしいコンディションで手に入れる。


ショー嫌いの店主は
人間を好きになることで
ショーにも行かずに今日も店をうるおわせている。(この項おわり)


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この読みにくい名前は
ブードロー・ブライアントと読む。


ナッシュヴィルアメリカ音楽産業の中心のひとつだとわかっていても
日本の音楽ファンは
この街の音楽に割ときびしく、
あまり多くのことは語られてこなかった。


バーゲン・ホワイトを
ナッシュヴィルニック・デカロ”と呼ぶのなら
ブードロー・ブライアントは
ナッシュヴィルのペリー・ボトキン・ジュニア”かもしれないぜ。(松永良平


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