Sonny Terry And Brownie McGhee / Down Home Blues

Hi-Fi-Record2009-10-29

 日頃聞き慣れているラジオ局の放送を、全米のどこにドライブしていても聞くことができるビジネスが始まったとするテレビ・ニュースを、買い付けで滞在中のアメリカで見た。ボストンで聞き慣れているラジオを、コロラドを走っている時でも聞くことが出来るという。衛星を使うことで可能になるサービスということで、これがいかに画期的なのか、全米に地図を表示するモニターの前で、発案者の若い社長が得意げにしゃべっていた。数年前のことだ。


 そんなサービスのどこがいいのだろうと思ったことは、確かだ。いくら聞き慣れているラジオと言ったって、同様の番組だったら、いくらでも見つかるだろうに。しかも、あれほどに沢山のラジオ局があるアメリカのことだったら、と思ったのだ。


 どんな小さな街に行ったって、ぼくらが買い付けで行く程度の規模の街だったら、すなわちレコード屋やアンティック・ストアがあり、レコード・コレクターの一人や二人が暮らしている街だったら、少なくとも10以上のラジオ局がある。きちんと数えたことはないから確かのことは言えないが、20位は優にあるだろうと思う。
 だったら別に聞き慣れているラジオ局にダイヤルを合わせなくとも、そこそこ気に入るラジオ局はあるのではないかと思っていた、ついこの間までは。

 
 このところになって、気に入るラジオ局の少ないことに、改めて驚いた。繰り返し繰り返しダイヤルを合わせてみて、やっと一つ見るかる程度。80sのヒットチューンを繰り返しオンエアーする局や、ヒップホップを選曲する局を避け、せめて60sのヒット曲をかけてくれるオールディーズのチャンネルを探しているからかもしれない。そんな局の無い街もある。
 "60s"って、もう50年近くも前なんですよ。50年も前のヒット曲を聞いて喜ぶ人なんて、もう70歳なんですよ、と松永クンが言う。そんな人、そうそういっぱいいませんよ、とも付け加える。確かにそうかもしれない。


 そしてもう一つ気づいたこと。
 同じペンシルヴェニア州でも、フィラデルフィアの局の放送をピッツバーグで聞くことなど出来ない。ニュージャージー州の局の放送も、ニューヨーク・シティに入って、しばらく東に走れば聞こえなくなる。放送の聞こえる範囲が、とても狭いのだ。
 ラジオの性能が悪いはずはないのだから、電波の出力が弱いのだろう。


 そんなこんなで、このところこれはいいぞと思う局をやっとのこと見つけたら、もうそこの局からチューニングを変えることがない。前述のサービスのありがたさを、さもありなんと思うに至った。


 どうしたんですか?こんなパンクばかり聞いていて。さっきからハードパンクばかりですよと、目を覚ました松永クンが言う。
 いや、ついさっきまでアコースティック・ブルースが流れていたんだ。それを気持ちよく聞いていたんだ。そういった音楽とつながりがあるものとして、いまこれが選曲されて流れているのかと思ってと、ボクが答える。
 ふとラジオのデジタル時計を見ると、数字は正時を越えて、次の時間帯を示している。おや、前の番組は終わっていたんだねえ、そうか、番組が変わったのか、といってボクはラジオのスイッチを切った。


 それまでの番組で流れていたのは、こんなタイプの音楽だった。こうしたサウンドが流れて来る平日のラジオ番組なんて、もう、今や皆無に近い。思わず聞きひたっていたのだった。(大江田信)



Hi-Fi Record Store