Rod McKuen / Back To Carnegie Hall With Stanyan Strings

Hi-Fi-Record2009-10-31

 車を運転していて、カーネギー・ホールの前の信号に、偶然に止まった。助手席に座る松永クンが、これですよ、これと指差して、カーネギ−・ホールですよと言う。僕は車の窓から大きく身を乗り出して、右、左とぐるっと周囲を見渡した。そして、そのあまりのこじんまりとしたたたずまいに驚いた。


 周囲に高層ビルが居並んでいるせいか、一瞬、二階屋ほどの背の低い建物と見まがう。このささやかな建物の中に、ホールが有るのだろうかと思う。歴史的な偉大なる音楽ホールだとして、カーネギーの名前がぼくの想いの中でとてつもなく大きな存在となっているからだろう。ポピュラー音楽のみならずクラシック音楽も含めて、ひとたびアメリカを目指し、彼の地を踏んだ音楽家に取って、長い間にわたってひとつの目指すべき道しるべだったのだ。


 よくよくみると10階は無いものの、5階ほどはある建物かなと思う。もっとゆっくり眺めたいと思っていても、7番街を走る数多くの車が、それを許してくれない。信号が変わるまでのほんの十数秒の間で、ホールの正面玄関の姿を僕は目に焼き付けた。


 たぶん他にも多くのホールがあることだろうが、ニューヨークでのライヴ・アルバムとなると、圧倒的にカーネギーの名前がタイトルに付いている。
 ジャズでもフォークでもクラシックでも、ああ、あれと思い出すアルバムがある。それも記念碑的なアルバムとなっていたり、音楽家のキャリアの節目を示すアルバムになっていたりする。それもこれも、カーネギー・ホールの歴史の持つ力と言うものなのだろう。


 ロッド・マッケンのカーネギー・ホールでのライヴ。
 大ヒット「Jean」を歌い始めた時に客席から響く拍手が、いい。
 そして彼の多くのアルバムの中でも、随一と言っていいほどに伸びやかで張りがある素直なボーカルが、適度な緊張感の中で流れている。ライヴ・アルバムにありがちな誇張が無い。繰り返し聞いて、それに耐える数少ないライヴ作品に仕上がっていると思う。それもまたカーネギー・ホールのもたらしたマジックかもしれない。(大江田信)


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