The Miracles ミラクルズ / Christmas With The Miracles
The Cool School 86 クイズです
大リーグの球団もある大都市の割に
この街のレコード屋は不作続きだった。
ようやく見つけたこの店も
それなりにレコードはあるんだけど
ちょっとだけ高い。
その“ちょっと”が、かわいくない。
商売としてのレコード屋が栄えてないと
商品の動きも鈍くなる。
そうすると向かう方向は
商品を安くしてどんどん叩き売るか、
相場を高くして少ない売れ行きで利益を確保するか。
この街は
どうやら後者を取ったらしかった。
そういう街では
買付にも身が入らない。
何とか十数枚を見つけて
カウンターに持ち込んだ。
ディスカウントの交渉をするには
やや心もとない量だけど、
まあ何とか少しでも安くしたい。
そのときだった。
カウンターに小さなボードが置いてある。
なになに?
「このクイズの正解者には
商品を20%引きします」だって!
マジかよ。
この店の値引きは
交渉で得られるものではなく
クイズに答えて勝ち取るものだったのだ。
店主らしき男が
眉間にシワを寄せてボードを覗き込むぼくに気づいて
声をかけてきた。
「やんのかい?」
やるともさ!
決然とした面持ちでぼくは顔をあげた。
ボードに書かれていたクイズの問題はこれ。
「シーラ・Eことシーラ・エスコヴァードは
あるミュージシャンの姪っ子だが、それは誰?」
え……?
プリンス&ザ・レヴォリューションの
女性パーカッショニストであったシーラ・Eの本名が
シーラ・エスコヴァードであることは知っていたけど、
その親族と言えば
ピートかコークしか知らないぞ。
確かどっちかが父親で
どっちかが親戚なんだよ。
大江田さんが不安の中に期待を込めた
うるうるした目つきでぼくを見ている。
「20%引き! 20%引き!」と
声にならないシュプレヒコールが脳内にこだました。
「あ……、ピ……だっけ? それとも……コ……」
乾いた口の中で
もごもごと暗唱する。
「ファイナル・アンサー!」という言葉が流行る
ずっと前の話。
音楽の(特にラテンの方の)神様、
ぼくに知恵をお授けください。
すると
何だかよぼよぼのぼやけた神様が現れて、
「●●●じゃよ」と言った(気がした)。
よし! わかった!
店主の顔をじっと見据えた。
大江田さん、まかせてください。
「答えは、ピートだ!」
ひと呼吸。
「ノオウ。正解はコーク、またはアレハンドロだ」
日本風に言えば、これは「ブ、ブブー!」だ。
誰なんだ、アレハンドロって。
大江田さん、ごめんなさい。
ぼくの頭の中の神様、ラテンにはうとかったみたいです。
粛々と値引きなしの金額を支払い、
店を出た。
いつか絶対リヴェンジしてやると誓ったが、
次にこの街を訪れたときには
店はあっさり閉店していた。
クイズ(勝負)に負けて
試合に勝ったとは
こういう気分のことか。(この項おわり)
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お待たせしました。
そろそろ今年もハイファイのクリスマス・レコード始めます。
実は
ちょっと前から少しずつ出してたんですけど
ようやく寒さも冬っぽくなってきたので。
よろしくお願いします。(松永良平)
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