The Miracles ミラクルズ / Christmas With The Miracles

Hi-Fi-Record2009-11-13

The Cool School 86 クイズです


大リーグの球団もある大都市の割に
この街のレコード屋は不作続きだった。


ようやく見つけたこの店も
それなりにレコードはあるんだけど
ちょっとだけ高い。
その“ちょっと”が、かわいくない。


商売としてのレコード屋が栄えてないと
商品の動きも鈍くなる。
そうすると向かう方向は
商品を安くしてどんどん叩き売るか、
相場を高くして少ない売れ行きで利益を確保するか。


この街は
どうやら後者を取ったらしかった。


そういう街では
買付にも身が入らない。


何とか十数枚を見つけて
カウンターに持ち込んだ。
ディスカウントの交渉をするには
やや心もとない量だけど、
まあ何とか少しでも安くしたい。


そのときだった。
カウンターに小さなボードが置いてある。


なになに?
「このクイズの正解者には
 商品を20%引きします」だって!


マジかよ。
この店の値引きは
交渉で得られるものではなく
クイズに答えて勝ち取るものだったのだ。


店主らしき男が
眉間にシワを寄せてボードを覗き込むぼくに気づいて
声をかけてきた。


「やんのかい?」


やるともさ!
決然とした面持ちでぼくは顔をあげた。


ボードに書かれていたクイズの問題はこれ。


シーラ・Eことシーラ・エスコヴァードは
 あるミュージシャンの姪っ子だが、それは誰?」


え……?
プリンス&ザ・レヴォリューションの
女性パーカッショニストであったシーラ・Eの本名が
シーラ・エスコヴァードであることは知っていたけど、
その親族と言えば
ピートかコークしか知らないぞ。


確かどっちかが父親で
どっちかが親戚なんだよ。


大江田さんが不安の中に期待を込めた
うるうるした目つきでぼくを見ている。
「20%引き! 20%引き!」と
声にならないシュプレヒコールが脳内にこだました。


「あ……、ピ……だっけ? それとも……コ……」


乾いた口の中で
もごもごと暗唱する。


「ファイナル・アンサー!」という言葉が流行る
ずっと前の話。


音楽の(特にラテンの方の)神様、
ぼくに知恵をお授けください。


すると
何だかよぼよぼのぼやけた神様が現れて、
「●●●じゃよ」と言った(気がした)。


よし! わかった!
店主の顔をじっと見据えた。
大江田さん、まかせてください。


「答えは、ピートだ!」


ひと呼吸。


「ノオウ。正解はコーク、またはアレハンドロだ」


日本風に言えば、これは「ブ、ブブー!」だ。
誰なんだ、アレハンドロって。
大江田さん、ごめんなさい。
ぼくの頭の中の神様、ラテンにはうとかったみたいです。


粛々と値引きなしの金額を支払い、
店を出た。
いつか絶対リヴェンジしてやると誓ったが、
次にこの街を訪れたときには
店はあっさり閉店していた。


クイズ(勝負)に負けて
試合に勝ったとは
こういう気分のことか。(この項おわり)


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お待たせしました。
そろそろ今年もハイファイのクリスマス・レコード始めます。


実は
ちょっと前から少しずつ出してたんですけど
ようやく寒さも冬っぽくなってきたので。


よろしくお願いします。(松永良平


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