Burt Bacharach バート・バカラック / What’s New Pussycat?

Hi-Fi-Record2009-11-15

The Cool School 87 さまよえる黒猫


レコード屋が閉店すると
そのレコードたちはどうなるのか?


そんなことをお客さんに訊かれることが
ごくたまにある。
素朴な疑問というものだ。


思えば
この連載の第一回
閉店するレコード屋さんの大バーゲンに出かけるという話だった。


そうやってお店を総ざらいしてしまうというパターンもあれば、
もっと余裕がないというか
もっと急に閉店をやむなくされた場合、
お店のレコードは手つかずのまま残される。


そして
やがて管財人がやって来て資産価値を判定しようとするが、
中古レコードの相場なんてわかるはずもないから、
「ほいほい、おれらの出番だよ」と
その近郊にあるレコード屋やディーラーがやってくる。
まあ、そんなとこだろう。


元気のいい店を訪れると
「こないだどこそこの店の在庫をまるまる買ってな」
なんて話を店主から聞くこともある。


そしてお店には
ぼくたちも見かけたことのあるタグ(値段シール)の上から
その店の付けた新たな値段が貼られたレコードが
たくさん並んでいる。


かつて存在したレコード屋の“しるし”をを見ながら
「ああ、高すぎてつぶれたんだなあ、あの店」とか
「ひょっとして閉店セールで、良いのは売れちゃったのかな?」とか
ぼくたちはああでもないこうでもないと
語り合ったりする。


カナダのある街に
かつてとてつもなく大きなレコード屋があったと聞いたことがある。


ぼくが買付に行くようになる前に
すでにその店は閉店をしていた。


しかし、
そこにいかに巨大な在庫が存在していたかを
ぼくは簡単に知ることが出来た。


それは何故か。


答えはレコードの中にあった。


その店では
入荷したレコードに内袋がなかった場合、
お店の宣伝が入った独自の内袋を付けていたのだ。
そしてそれは
一度見たら決して忘れないデザインになっていた。


白いヴィニール袋に黒い線で
描かれていたもの、
それは黒猫だった。


黒猫は
西海岸にも
東海岸にも
南部にも中西部にも現れた。


その店が我が世の春を謳歌していた時代を伝える“しるし”となって、
アメリカ中を黒猫がさまよっていた。


さすがに最近は見かけることが少なくなった黒猫の内袋、
そろそろ自分用にキープしておかなくちゃなと
最近思い始めたところ。(この項おわり)


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ジミー・スミスの「ザ・キャット」があれば完璧なんですがね。
猫つながりで、こっちにします。(松永良平


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