Yes イエス / Yes

Hi-Fi-Record2009-11-17

The Cool School 88 値段のないレコード


今、アメリカで一番巨大なレコード・ショップ。
その名前は出さずとも
ご存じの方が多いかもしれない。


とにかく店がでかい。
大きめの体育館かアリーナくらいの建物の中を
ところ狭しと音楽ソフトが埋め尽くしている。


店員の数の多さも半端じゃない。
レジだって10台以上あって、
一列に並んだお客が順番にコールされるシステムが出来上がっている。


とにかく音楽ソフトの何でも屋で
新譜も中古も充実しているから
買付のときも欠かさずに寄ることになる。
割と遅くまで営業しているしね。


ある買付のとき、
見つけたレコードに値段のシールが付いていなかった。
シール一枚を貼って済ませるだけだから、
ちょっとしたはずみで外れて落ちたりもするのだ。
そういうことは他の店でもよくあること。


そんなに高いレコードじゃないし、
普通の店ならレジに持っていけば
適当に値段を設定して売ってくれる。


そのときも
深く考えずにレジに並んだ。


ぼくの番が来た。
レコードをひいふうみいと数えだした店員は
値段のないそのレコードをポイッと脇に置いた。
とりあえず分けておいて、
あとで値段を設定するのだろうと思った。


ところがだ、
レジを打ち終わった時点で
そのレコードは計算に含まれていなかった。


さっきのレコードは買えないのかと訊くと、
「わるいね、おれには権限がないんだ」との答え。
だったら、だれか値段を決める担当者に訊いてよと迫ると、
「ノー。そういうことはやってない」と
今度はまるでぼくが故意に値札を剥がしたかのような目つきになった。


疑われるのもばかばかしくなって
あっさりギブアップ。
これほど巨大であらゆるものが揃っている店なのに、
小さな穴を埋める知恵はないのかと
少しかなしくなった。


「きっと上司にしつけられてるし、
 自分で余計な責任を背負いたくないんだろうね」と
大江田さんはなぐさめてくれた。


話は変わって
南部の小さな街のレコード屋


レジの脇に置いてあるレコードを
ぼくは目ざとく見つけ出した。


スペンサー・デイヴィス・グループの
イギリス・オリジナル盤だった。
盤質はミントだ。


これは値段はついてますかと
店番をしていた女性に訊いた。


いかにも南部っぽい
顔も話し方も威勢のいい彼女は
レコードをしげしげと見つめた。


「今日は旦那がいないのよね……」


しばらくジャケを裏返しにしたり
珍しい化石でも見るように彼女なりの鑑定をした挙げ句、
「2ドルでいいわ。
 旦那が怒るかもしれないから、早く買って出てって」
そう言って、カラカラと威勢よく笑った。


旦那には大目玉をくらったかもしれないけど、
奥さんは最高だった。


わざわざ遠くから来てくれたんだから、
ちょっとぐらい安く売ったからって何だって言うの?
血の通った商売ってそういうことなのよと
このときぼくに教えてくれたと思っているからだ。(この項おわり)


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エスの最初のキーボード奏者だった
トニー・ケイって
すごくモッドな良いオルガンを弾くひとだ。


その基準で聴くと
このファーストは最高のアルバム。


モッド・ジャズ&フォークロック、
ペドラーズあたりと並べて聴かれてもおかしくないと
久しぶりに大音量で聴いて思った。(松永良平


試聴はこちらから。