Barbara Dane / Sings The Blues With 6 And 12 String Guitar

Hi-Fi-Record2009-11-26

 今は無き池袋のMレコードの客だった頃、店主に向かって趣味を仕事にして楽しそうですねと声をかけたところ、とんでもないと返された。妙に気色ばった声色になったところを見て、踏んではいけない地雷に足を掛けてしまったと思った。高校生の息子を持ち、家族を背負って生きているのだから、趣味などとはとんでも無いのだ、これは仕事としてやっているのだ、いくら音楽が好きでも仕事と趣味を一緒にしちゃダメだと諭された。
 この種の警句というか、先輩からの教えに、ぼくは弱い。そうなのかと、素直に信じてしまう。そしてその言葉が、記憶のどこかに棲み着く。


 そうかと思うと、趣味が高じて仕事を始めたとしか思えないタイプの店主と会うこともある。松永クンがこの日のブログに書いている太っちょの店主は、その一人だ。
 レコードを買付ける。ジャンルごとに整理する。また買付ける。とにかく買付ける。とてつもなく買う。そして整理する。
 その過程で、クラシックだけは家に持ち帰っているのではないかと思ってしまうほど、その種のレコードの量が家中に膨大だった。
 店では、クラシックは店の奥にほんの少し、ささやかに配されているだけだ。ほとんど扱っていないに等しい。


 レコードが詰め込まれた家の奥には、とてつもなく大きなスピーカーが横幅広く配されたリスニング・ルームがあった。こうして音楽を聴いているんだとして、彼が我々に自室を紹介している間も、コンチェルトやシンフォニーが好きなようで、ブラームスあたりのシンフォニーが流れていた。こんなにどでかい家にこもって、こうしてクラシックを一人で聴くのかと、妙に感じ入った。
 家の中には、生活の香りがするものは、皆無だった。この人は、相当に孤独なのではないか、と思った。彼は、独身だった。

 
 趣味が高じてレコード屋を始めたんじゃないか?と聞くのは忘れたが、それにしても彼は我々にレコードを見せている間もずっと、彼はその種のフレーズをハミングしていて、なんだか聞くまでもなかった。これはこれで、凄絶な音楽との付き合い方だと思った。


 趣味と仕事なんて二元論の立て方がそもそも貧しい発想だ、なんてうそぶいてみたいが、なかなか自分に向けては言うことが出来ない。それにしても思い返すにつけ、かの店主氏には当てはまるかもしれない、と考える。趣味と仕事を、大きな両手で抱えている。


 可能であれば隠匿したい、との誘惑をもたらすレコードが買付荷物に混ざっていることもある。こういう時が一番困る。ハイファイでは、スタッフが商品を買うことは許されない、という建前なのだ。


 最近、そうした誘惑をもたらした一枚。
 このコンディションとこの価格で、オリジナル盤が次回いつ手に入るのかと問われても、答えに窮するだろう。彼女の知的な風貌と、反骨振りがたまらない。(大江田信)



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